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親子でシェアできる通学バッグ誕生! エース「ガジェタブルU」開発の裏側
子どもが背負う荷物の重量化が社会問題となって久しい。タブレット端末の導入や猛暑対策グッズの増加により、小学生の荷物はかつてないほど多様化し、重くなっている。そんななか、ビジネスバッグの分野で培った知見を子どもの通学環境に応用しようという試みが、老舗バッグメーカーのエース株式会社で進められていた。
同社の人気ビジネスリュック「ガジェタブル」シリーズの遺伝子を受け継ぎ、親子でシェアできる新しい通学リュックとして開発された「ガジェタブルU」。その開発背景には、働く親としての切実な視点と、長年のカバン作りで蓄積された技術の融合があった。開発の中核を担ったエース株式会社MD担当の橋本祐佳氏に、その設計思想と開発の裏側を聞いた。
PROFILE
橋本 祐佳(はしもと ゆか)
エース株式会社
デザイナーとしての経験を経て、現在はMD計画部にて商品企画・開発を担当。社内研究会「ace MAMA labo.(エース ママラボ)」の立ち上げメンバーとしても活動しながら、子育てにも邁進中。
現代の小学生が抱える「重さ」の課題
開発の起点は、エースの社内研究会である「ace MAMA labo.(エース ママラボ)」における雑談だった。産休・育休から復帰した女性社員を中心に、一部の男性社員も加わったこのチームでは、度々「ランドセルの重さ」が議題に上がっていた。コロナ禍を経て、学校生活の様式は一変した。GIGAスクール構想によりタブレット端末が配布されるようになったが、破損を防ぐための堅牢なケースに入った端末は、大人用のPCよりも重くかさばる場合がある。加えて、気候変動による猛暑対策として、大容量の水筒や日傘、ネッククーラーなどの携行品も常態化した。
「大人の通勤と子どもの通学、持ち物を比較してみると実はそれほど変わりなく、むしろ子どもの方が過酷な状況にあることに気づきました」と橋本さんは語る。
既存のランドセルは、革製品としての美しさや耐久性には優れているものの、急増した不定形な荷物を効率よく収納し、かつ身体への負担を最小限に抑えるという点においては、進化の余地が残されていた。
そこで選ばれたのが、同社のビジネスリュック「ガジェタブル」である。混雑した交通機関での通勤を想定して開発されたこのシリーズは、無駄を削ぎ落としたスクエア形状が特徴だ。

「あの四角い箱のような形状は、まさにランドセルではないか」。社内でのこの気づきが、ビジネスバッグのノウハウを通学用へ転用するプロジェクトのきっかけとなった。
製品名の「U」は「Universal(ユニバーサル)」を意味する。子どもが使いやすいものは、誰にとっても使いやすいはずだという仮説のもと、単に「子ども用ガジェタブル」を作るのではなく、子どものライフスタイルを起点に全世代が使用可能な設計を目指した。
数値以上の軽さを生む荷重分散技術
「ガジェタブルU」の開発において重視されたのが軽さの「質」である。単に重量計の数値を下げるために生地を薄くしたり芯材を省いたりするのではなく、軽さ・耐久性・利便性のバランスを踏まえた設計とした。そのうえでエースが目指したのは「軽く感じること」。すなわち「体感重量の軽減」である。橋本さんによれば、人は身につけるものが硬いと、それを「重い」「窮屈」と感じる傾向があるという。従来のランドセルは堅牢な箱型構造ゆえに、身体の動きに対して融通が利かず、接触点に圧力が集中しやすい。対してナイロン素材のリュックは、素材自体の柔軟性により身体のラインに追従し、荷重を面で受け止めることができる。
この「柔らかさによる分散」に加え、ビジネスバッグ開発で培った人間工学的な知見が投入された。背中と接するパネルには、クッション性と通気性を兼ね備えた「エアメッシュ」素材を採用。背骨に沿った中央部分をあえて空洞にし、左右の肩甲骨と腰部分で荷重を支える配置にすることで、空気の通り道を確保しながら、荷重を分散している。

また、ショルダーハーネス(肩ベルト)の設計にも、同社の知見を生かして、子どもの体格にも合わせた調整が行われた。肩のラインに沿ってハの字型に広がる形状や、チェストベルトによる固定機能は、身体の小さな子どもの肩からのずり落ちを軽減し、リュックと身体の密着度を高める。

子どもの動きに耐える耐久性と素材選定
軽量化を追求する一方で、通学カバンには過酷な使用環境に耐えうる耐久性が求められる。素材選定においては、単に軽いだけでなく、糸の番手(太さ)が太く、目の粗いポリエステル生地が採用された。これにより、引裂強度と摩耗強度を高めつつ、生地自体に「コシ」を持たせている。生地が薄すぎて形状が崩れてしまうと、収納物が安定せず、結果として背負い心地が悪化するためだ。
縫製技術に関しても、エースの厳格な品質基準が適用されている。負荷がかかりやすいトップハンドルやショルダーの付け根部分は、ダブルステッチ(二重縫製)で補強。さらに、生地の端(ヘリ)を巻き込む処理においても、内部を二重構造にするなど、外からは見えない部分に補強が施されている。

「エースにはQC(Quality Control)という品質管理部門があり、すべての製品に対して落下テストや振動テスト、摩耗テストなどを行っています。ガジェタブルUに関しても、大人用のビジネスバッグと同等の基準でテストを実施し、クリアしたものだけを製品化しています」と橋本さんは強調する。
想定される積載重量についても、教科書やタブレットを満載にした状態を基準とし、それを振り回した際の負荷に耐えうる設計となっている。軽量化と耐久性という相反する要素を、素材の選定と縫製技術の組み合わせによって高い次元でバランスよく両立させている点は、長年カバン作りを続けてきたメーカーならではの強みだ。
整理整頓を促すポケット配置の妙
ガジェタブルUのもう一つの大きな特徴は、ビジネスバッグ譲りの多機能なポケット配置である。これは単に収納箇所が多いというだけでなく、現代の小学生の学校生活における「動線」を深く分析した結果として設計されている。橋本さんら開発チームがヒアリングを行うなかで判明したのは、多くの小学生がランドセルを「ロッカーに入れたまま棚のように使っている」という実態だった。
「子どもたちは、授業ごとにランドセルをロッカーから取り出し、教科書などを出し入れしなければならない場合もあるそうです。従来のランドセルだと、大きなかぶせ蓋(フラップ)が邪魔になったり、中身が雪崩を起こしたりして、ロッカー前が“カオス状態”になっているという声が多く聞かれました」
ガジェタブルUにはフラップがないため、ファスナー操作でメイン開口部を大きく開けることができ、加えて、前面や側面に多数のポケットが配置されている。これにより、ロッカーに入れたままでも必要なものにアクセスしやすい。

「たとえば、給食のときに使うマスクやハンカチ、歯列矯正用のマウスピースなど、細かい持ち物は前面のポケットに。学童保育でお弁当が必要な日は、底のマチを広げて収納スペースを確保することができます。保冷剤が入るポケットもあり、お弁当を安心して持ち運べます。」

「また、GPS端末や家の鍵といった『子どもにむやみに触らせたくないが持たせなければならない貴重品』は、前面の隠しポケット(シークレットポケット)に入れることで、紛失リスクを減らしています」

さらに、側面には折りたたみ傘やリコーダーが入る縦長のポケットも装備されている。これらはすべて、ママラボのメンバーが実際の育児経験から導き出した「あったらいいな」を具現化したものである。

従来のランドセルが「大きな一つの箱」であるのに対し、ガジェタブルUは「機能別に区分けされたシステム収納」だ。
成長に合わせて調整可能なハーネス設計
「ユニバーサル」の名が示す通り、本製品は小学校入学時の1年生から、高学年、さらには大人になっても使用できることを想定している。ここで最大の技術的ハードルとなったのが、体格差の激しい成長期におけるフィッティングの最適化である。特に難航したのが、ショルダーハーネスの長さ設定だ。大人が背負った際に短すぎれば窮屈になり、子どもが背負った際に長すぎると重心が下がって身体に負担がかかる。
「一番小柄な小学1年生の体型と、大人の体型の両方でテストを繰り返し、ギリギリの最適解を導き出しました」

サイズ展開はS・M・Lの3サイズを用意しているが、Sサイズであっても、ハーネスを伸ばせば大人が違和感なく背負えるサイズ感(既存のガジェタブルの一番小さいサイズと同等)になっている。これにより、「子どもが使わなくなったら親が使う」といった、製品寿命を延ばす使い方も可能になった。

ランドセル文化と新しい選択肢の共存
ランドセル市場は、長らく「革製の箱型」という既成観念に支配されてきた。しかし、気候変動や教育環境のデジタル化といった外部環境の変化は、旧来の道具のあり方にも変革を迫っている。エースが提案する「ガジェタブルU」は、ビジネスバッグで培った「合理性」と「機能性」を、子どもの通学環境に適用した一つの回答である。それは、伝統を否定するものではなく、現代の過酷な通学環境に対するソリューションとしての選択肢だ。
「まずは、こういったナイロン製の機能的なリュックも選択肢の一つとしてアリなんだ、という認知を広げていきたい」と橋本さんは語る。
重力との戦いは、ビジネスパーソンだけの問題ではない。成長期の子どもたちの身体を守り、毎日の通学をより快適にするための技術。それが、これからの通学カバンの新しいスタンダードになっていくだろう。















