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なぜ“新品より気持ちいい”のか──モリモトクリーニングが挑む、寝袋「機能回復」の科学

2026.08.21
高級ダウンのメンテナンスで全国的に知られるモリモトクリーニングが、その技術を応用し、アウトドア用のシュラフ(寝袋)を専門にケアする新サービスの提供を開始した。
なぜ同社は、ファッションアイテムとは異なる、過酷な環境で用いられるギアのケアサービスに乗り出したのか。その背景には、父から受け継いだ家業を独自の視点で革新し、個人の情熱を新たな事業へと結びつけた一人の男の物語があった。
今回、モリモトクリーニングの守本武司さんに取材を行い、同社の新たな挑戦の軌跡を語っていただいた。

PROFILE

守本 武司(モリモト タケシ)

モリモトクリーニング代表

1973年創業 モリモトクリーニング2代目

「優しさ」から「商売」へ。ハイブランド特化へ舵を切る

1973年創業のモリモトクリーニングは、地域に根差したクリーニング店として歩んできた。
二人三脚で歩んできた地元に愛されたクリーニング店
創業者である守本さんの父は、高級ブランド品でも一般の衣類と同じ料金体系でサービスを提供し、追加料金なしで染み抜きにも向き合う職人気質の持ち主だった。
一度はWeb系企業へ就職した守本さんだったが、家業へ戻り、その仕事ぶりを目の当たりにする。
「父はハイブランドでも一般のものと同じ料金で扱い、染み抜き代も取らずに一生懸命服と向き合っていました。その優しさは素晴らしいけれど、その技術をきちんと商売につなげたいと思い、家業を継ぐことに決めたんです」
その後、ハイブランド専門へと舵を切り、Webマーケティングも取り入れたことで、全国から依頼が集まるクリーニング店へと成長した。

アウトドア好きが見つけた、シュラフ再生の可能性

ハイブランドクリーニングで培った技術を、次に生かしたのがシュラフだった。登山やキャンプを趣味とする守本さんは、高機能なアウトドアウエアを日常的にメンテナンスするなかで、高機能素材に適したクリーニング技術を磨いてきた。
アイテムごとに専用の洗剤を使用し、最高品質の仕上がりを実現
そんな折、知人から「自宅でシュラフを洗ったら大変なことになった」という相談を受ける。
「そこで預かって洗ってみたところ、『収納袋に入らないくらいふっくらした』と喜んでもらえました。その時、『これは求められている技術だ』と確信したんです」
高価なシュラフを長く使いたい。しかし適切な手入れの方法が分からない。その悩みを、自社の技術で解決できると確信した瞬間だった。

「つきっきり」の職人技! シュラフを蘇らせる洗浄と乾燥技術

シュラフのクリーニングは、ダウンジャケット以上に難しい。サイズが大きいうえ、羽毛が偏らないよう設計された「バッフル構造」は複雑で、強く洗えば縫い目を傷めたり羽毛を傷つけたりする恐れがある。
まず、皮脂汚れが付きやすい首周りなどを専用洗剤で丁寧に手洗いする。その後、大きなネットに入れて35度程度のお湯で5〜8分洗浄し、2回すすぎをかける。一度に洗えるのは最大2点までで、一つひとつの工程を慎重に進めていく。
特殊な構造だからこそ、長年の経験と専用の洗剤が必要になる
「シュラフは撥水性が高いため、洗濯中にどんどん膨らみます。中の水も抜けにくく、泡もたまりやすい。また、強い回転や遠心力がかかると縫い目が裂けてしまうこともあります。ものによっては、つきっきりで様子を見なければいけません」
もっとも時間を要するのが乾燥工程だ。強力に脱水した後、4〜5日かけて自然乾燥させ、半日ごとに裏返して内部までしっかりと乾かしていく。最後に数分間高温乾燥機にかけて仕上げることで、ダウン本来のふっくらとしたかさ高が蘇るのだ。
専用洗剤と念入りな乾燥によって、かさ高は回復し、より触り心地のよい生地感に

新品を超える質感と、環境配慮への挑戦

モリモトクリーニングでは、クリーニング業務用の化学製品を扱う専門メーカーのダウン専用洗剤と、独自の「加脂加工」技術により、新品以上の質感を追求している。
ダウンは天然の油分によって軽さと保温力(フィルパワー)を保っているが、洗浄を重ねると必要な油分までが失われ、羽毛はパサついてしまう。加脂加工では適切な脂質を補い、羽毛本来の弾力を取り戻すことで、「デッドエア(熱を蓄える空気の層)」をつくる力を回復させる。
守本さん自身も、この技術によりもたらされる変化を実感している。
「シュラフで寝るときに、買ったときよりもすべすべで気持ちよくなったんです。これは体感でしかないんですけど、『とても心地がいいな』と思いました」
新品を超えるという付加価値に加え、自然の中で使われるギアだからこそ、環境への配慮も徹底している。標準の撥水加工には、環境や生態系への影響が懸念されるPFAS(有機フッ素化合物)を使用しない撥水剤を採用した。
一方で、PFASフリーの撥水剤は、従来のフッ素系に比べて初期撥水性や耐摩耗性に課題がある。そこで同社は、職人による精密な塗布とスチームアイロンによる熱管理を組み合わせた、独自の「定着プロセス」を開発した。
完璧な仕上がりのためには、熱処理という最後の工程が不可欠
撥水成分を繊維の奥まで浸透させ、熱によって撥水基を分子レベルで整列・定着させることで、PFASフリーでありながら、過酷な結露や湿雪にも耐える高密度・高耐久の撥水性能を実現している。
その効果を客観的に示すため、ロフト値(かさ高)の数値化にも取り組んでいる。ただし個体差や測定条件の影響が大きいため、現在は利用者の体感も重視しながら、より精度の高い評価方法の確立を進めている。

機能回復の、その先へ

モリモトクリーニングの取り組みは、シュラフだけに留まらない。守本さんは、ダウン用やおしゃれ着用、道着専用のオリジナル洗剤の開発・販売をはじめ、羽毛布団のクリーニング・保管サービスやバイクウエアへの展開など、次なる構想を描いている。
オリジナル洗剤を展開していくなかで、需要の高いスニーカーに特化した商品も販売
父から受け継いだクリーニング店は、ハイブランド特化とWebの活用によって全国区へと成長し、個人の情熱と職人の技術が掛け合わさることで、その可能性はさらに広がろうとしている。
良質なものを、適切なケアで長く愛用する。その価値を職人の手仕事を通して伝え続けるモリモトクリーニングの探求は、まだ始まったばかりだ。

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