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なぜ無印良品に「MUJI Labo」は必要なのか? “実験室”が拓く、ものづくりの未来と深層
無印良品の中で、ひときわ異彩を放つラインがある。「MUJI Labo(ムジラボ)」だ。2005年に発足した同ラインは、自然や素材の魅力を最大限に引き出し、衣服の細部にまで徹底的にこだわる姿勢を貫いている。そして近年では大きなリニューアルを遂げた。それは単なるデザインの変更に留まらず、無印良品の未来を創造する、新たな一歩である。
今回、「MUJI Labo」の商品担当者である立石学さんと同デザイン担当の鈴木誠子さんへの取材から、その誕生から現在、そして未来にいたるまでのブランドの思想の変化とものづくりの深層に迫る。
PROFILE
立石 学(たていし まなぶ)
アパレルブランドにて海外計画、MD、ECなどの担当を経て、23年良品計画入社。紳士、MUJI Laboを担当。
PROFILE
鈴木 誠子(すずき まこ)
グローバルブランドにてチーフデザイナーとしてキャリアを積んだのち、無印良品のデザインディレクターに就任。現在は、衣服雑貨およびMUJILaboデザインを手掛けている。
MUJI Laboはなぜ生まれたのか
すべての店舗で展開されているわけではないため、「MUJI Labo」の存在を知らない人もいるかもしれない。このラインは2005年に誕生し、その名の通り、通常のラインナップでは取り組むことができない挑戦的なアイテムを扱う、まさに実験を行うために設立されたといってもいいだろう。「無印良品の商品の魅力である自然の力や素材の力を生かしながら、細部まで徹底的にこだわるものづくりをするというコンセプトです。そのためには、大量生産・大量消費では実現できないようなものづくりの精神が必要です。未来へ繋いでいくという考えがブランドの根底にあります」(立石)
2005年以降リニューアルを経るごとに、この考えを洗練させていった。2017年のリニューアルでもっとも象徴的だったのは、「ジェンダーレス」や「エイジレス」という概念を全面的に打ち出したことだろう。性別や年齢といった従来の区別に捉われず、誰もが着られる服を目指すという表明だった。多様化する現代のライフスタイルに合わせ、新たな価値観を創出するという姿が見られる。

この「MUJI Labo」が面白いのは、実験室としての役割を本当に担っているということだ。実験が成功すれば、その知見は広く社会に還元される。それが無印良品の中でも起こっている。
「夏の定番商品として人気のある“風を通すシリーズ”は、『MUJI Labo』で最初に販売されたものになります。大変好評だったため、現在はレギュラー商品として主力商品のひとつになりました」(鈴木)
このように、無印良品が表現したいものを突き詰めていった結果、それが多くの人が求める商品だったということは多々あるようだ。もしかしたら、この記事を読んでいるあなたが着ている服も「MUJI Labo」から生まれたものかもしれない。
新生MUJI Laboのきっかけ

こうして新たな挑戦を続ける「MUJI Labo」は、2024年にリニューアルをした。徐々にファン層を獲得し軌道に乗りつつあったが、なぜこのタイミングで見直しされたのだろうか。
「私たちが伝えたかったのは、無印良品の強みである自然由来の素材の魅力でした。
私たちは数年をかけて、世界中の素材や伝統文化をリサーチしています。魅力ある素材をどのように生かしていくか、どうやってお客様に商品のストーリーを届けていくか。そうした根本を見直そうという声が社内で上がったのがきっかけです」(鈴木)
「無印良品はライフスタイル全般で商品展開をしています。そのため化粧品や食品から無印良品の世界に足を踏み入れた方々に、どうしたら衣服を手に取っていただけるのか。トータルプロデュースの視点も合わせて考えてみようとなりました」(立石)
伝統文化を伝えていく

その視点を体現するかのように、ホームページには「地球環境を維持し、社会課題を解決し、文化伝統から学び、生活者個人の個性が輝くような、商品やサービスの開発を目指す」というコンセプトが掲げられた。この言葉に込められた意図は何なのか。
「冬になるとカシミヤの商品が多く出回ると思います。私たちが扱うモンゴルの“自然のまんまのカシミヤ”の原毛は、自分たちで産地まで赴き、カシミヤ山羊が農場や遊牧民によって大切に育てられいることを確認し、より遊牧民に近いところから買い付けをしています。
世の中では、染色をしやすくするために白く品種改良をしたカシミヤ山羊が使われることが多いですが、私たちはカシミヤ本来の風合いを大事にし、出来るだけ染色漂白を行わず、自然のまんまの色が楽しめるようにしています」
このような裏話は多くは表に出てきません。だからこそ、文化や伝統の学びという点においても、どのような活動をしているのか現地へ訪れてリサーチし、開発を行っています。
「カディはインドの伝統的な手紡ぎ、手織りで作られた布で、手仕事ならではの自然なムラがあり、風を通します 。一つひとつが手作業なため、大量生産では真似できない生地の表情が現れます。現地では『自由の布』といわれ、ガンジーが各地に普及させたという文化的な意味も持ち合わせている素材になります」(鈴木)
このように素材ひとつとっても、それがどのような物語を持っているのかを数年かけて調査し、納得のいくものだけが商品になっていく。ここにデザイン先行ではないものづくりの姿がうかがえるだろう。

それほどのこだわりがあるとはいえ、MUJI Laboの魅力発信にはまだまだ課題があるようだ。特に全世界で展開している無印良品だからこその悩みがある。
「グローバルな規模で見ると、商品の開発ストーリーを現地で伝えていく難しさを感じています。各店舗では商品がただ置かれているだけの状態で、商品の魅力が十分に伝え切れているとは思いませんし、ここまでお伝えしたような熱量をどうしたら表現できるのかが大きな課題となっています」(立石)
そうした悩みを抱える一方で、国内では代官山にMUJI Laboのフラッグシップストアをオープンさせた。当初からの狙いであった「暮らしのこだわり」を体現するのにもっとも適した場所であり、海外からの顧客も多く、少しずつだがその魅力の広まりを感じているという。

MUJI Laboを通じて無印良品を知る

普段から素材にこだわる人が多く愛用する無印良品の商品だが、MUJI Laboはその中でも群を抜いている。だがその魅力はファッション通にしか届いておらず、大多数の人にはまだ届いていないのではないかという疑問をぶつけてみた。
「あくまでも、商品の立ち位置としては実験的なものです。大都市に1店舗は展開していることもあり、特別なラインだとは思っていません。ここで人気になったものはレギュラー商品に落としていくことも意識しており、多くの人に触れていただけるような未来を描いていきたいと思っています」(立石)
一般的なブランドと違い、一部の店舗でしか扱っていないから特別なものだというわけではなかった。むしろMUJI Laboがあるからこそ、無印良品の魅力がより高められるという考えが基本にありそうだ。
「MUJI Laboだからといって、無印良品の基本的な考えから外れたことをしているわけではありません。弊社としては、無印良品の源流が色濃く詰まったものがMUJI Laboだと考えています。
だからこそ、私たちが大切にしている自然や素材への思いはMUJI Laboを通じて広まっていきますし、無印良品をさらに好きになっていただけるきっかけになればと思っています」(鈴木)
MUJI Laboは、これからも「実験室」であり続けるだろう。その実験の成果は、時に無印良品の新たな定番となり、私たちの衣服や自然に対する価値観を刷新していくはずだ。2024年のリニューアルは、その探求の新たな一歩に違いない。












