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発熱じゃなく“保温”で冬を変える──ワシオ「もちはだ®」が目指す、世界から寒いをなくす服

2026.01.05
ワシオ株式会社は、1955年の創業以来「世界から寒いをなくしたい。」をモットーに、防寒インナー「もちはだ®」シリーズの試作開発を行っている兵庫県加古川市のメーカーだ。
「もちはだ®」の核となるのは、特許も取得した「鷲尾式起毛」と呼ばれる独自の技術である。今回は、この「もちはだ®」の特長と、そのアウターへの展開についてワシオ株式会社代表取締役の鷲尾さんに聞いた。

PROFILE

鷲尾 岳(わしお たかし)

ワシオ株式会社 代表取締役社長 

1991年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後は神戸の会社に入社、その後単身中国に渡り、日本酒等の輸入販売を行う事業の立ち上げに参画。家業の業績悪化を知り、2016年2月に帰国しワシオ株式会社に入社、直後の決算で過去最大級の赤字を計上。抜本的な経営改革を行い、その後1年で黒字化することに成功。これまで新ブランドの立ち上げやクラウドファンディングの実施、自身がMCを務めるラジオ番組の開始など活動は多岐にわたる。

暖かさの科学:空気の層を作るループ構造の秘密

「鷲尾式起毛」とは、繊維のループをカットせずに編み地に残したまま起毛させる独自の技術である。一般的な起毛生地がループを切断してけば立たせるのに対し、この製法は「編む」と「起毛する」を同時に行い、カットされないループがそのまま空気層を作り出すことで、極上の暖かさと肌触りを実現している。
その仕組みについて、鷲尾さんはこう説明する。
「一般的な防寒肌着は、繊維が湿気を吸収した際に生じる吸着熱を利用した“発熱”というアプローチが多いですが、『もちはだ®』は発熱ではなく“保温”します。
ループをそのまま残した状態で起毛させることで、生地の内側と外側の間に多くの空気の層が生まれます。この空気の層が、体温で温められた熱を外に逃がさず、かつ外からの冷たい空気を遮断する断熱材の役割を果たすのです。つまり、体本来の温度を“保温”するので、無駄な暑さを感じにくく、体温調節機能の邪魔にもなりません」
このパイルループを壊さない構造は、「もちはだ®」の名称の由来ともなった肌触りにも貢献している。一般的な起毛では、繊維が切断されるため「大量の尖った断面」が現れ、着用時の「ちくちく感」の原因となる。
一方「もちはだ®」は、このとがった断面がないためちくちくしない。加えて、バルキー糸というふっくらとした糸を使い編み立てているので、ふわふわとした肌触りとなっている。
さらに、「伸縮性のある加工糸」と「パイル構造」に編み上げることで、タテ・ヨコ・ナナメに優れた伸縮性を発揮するため、運動時やリラックス時でもゴワゴワせず、やさしく体になじむ着心地のよさを実現している。
「『もちはだ®』はその保温力の高さから重ね着の必要がなく、薄く軽い生地のおかげで寒さを忘れて軽快に動ける冬を実現し、『冬が楽しみになる服』です」と鷲尾さんは胸を張る。この保温性だけにとどまらない多角的な機能性が、「もちはだ®」が長年にわたり支持されてきた理由なのだ。

インナーからアウターへ、ブランド変革への挑戦

1970年の誕生以来、主にタイツなどのインナー製品を中心に展開してきた「もちはだ®」がアウターへ舵を切った背景には、「技術の可能性を閉じ込めたくない」という視点があった。
「インナーとしての需要には、どうしても季節的な限界があります。また、機能性を追求するあまり、ファッション性においては二の次になっていました。ブランドを未来に繋げていくためには、新しい顧客層にアプローチする必要性を感じていました」
転換点となったのは2017年。クラウドファンディングサイトを活用し、タウンユースアイテム「ラグランTシャツ」を発表した。これは、従来のインナーとしてのイメージを覆し、「もちはだ®」の技術をファッションアイテムとして再提案する試みであった。
2017年に発売されたもちはだ®のラグランTシャツ
結果として、このプロジェクトは多くの支援を集めて成功を収め、ブランドが新たな顧客層に受け入れられる可能性を証明した。
この成功体験を基に、「もちはだ®」はインナーで培った保温技術を、パーカーやポンチョといった日常的なアイテムに応用。この変革は、単に製品ラインナップを増やすことではなく、ブランドが持つ核技術の価値を、現代のライフスタイルという新たな文脈で再定義する戦略的な挑戦であった。

現代のライフスタイルに寄り添うデザイン哲学

もちはだ®がファッションアイテムとして受け入れられるためには、デザインの抜本的な見直しが不可欠だった。
「以前も『もちはだ®』を使用したアウターは発売していましたが、機能性最優先で、ファッションに関心のある方が手に取るようなデザインではありませんでした。そこで、シルエットの根本的な見直しを図りました。
たとえば、以前のパーカーは体にフィットするタイトな作りでしたが、タウンユースしやすいよう肩を落としたリラックス感のあるボックスシルエットに変更しました」
代表的な製品である「TOWNポンチョコート」は、後ろ身頃が長めのドレープラインが特徴で、ゆったりとした着心地。また、「TOWNプルオーバーパーカー」は、手首や裾のリブ部分のカラーに少し変化を加えてアクセントにしているほか、フードを2重生地にすることで、暖かく立体感のある立ち上がりにしている。
もちはだ®TOWNポンチョコート
もちはだ® TOWNプルオーバーパーカー
「『もちはだ®』の生地は、約50年前の靴下の編み機をベースに独自の改造を施した、世界で唯一の編み機を使って編み上げています。たとえ最新の機械でも作れないようなアイテムを作れてしまう、ある種オーパーツ的な存在なんです。
当然、カスタマイズ用のパーツなどは一切市販されていません。新製品の開発や既存製品の改良にあたっては、その都度必要な部品を自作しています。僕たちのものづくりを支えているのは、職人さんたちの技術と情熱です」

鷲尾さんが語る「もちはだ®」のこれからの可能性

インナーからアウターへ。大きな変革を遂げた「もちはだ®」は、次なるステージを見据えている。鷲尾さんは、新たなライフシーンへの展開に意欲を見せる。
「最近、サウナが好きな方から『サウナ後に羽織るポンチョとして最高だ』という声をいただきました。保温性が高いので湯冷めしにくく、吸水性もある。我々が想定していなかった使い方ですが、非常に面白い視点です。
我々はファッションブランドではなく、あくまでメーカーなので、どんなファッションを提唱したいかではなく、『もちはだ®』の価値をより多くの人に届けるためのアイテム開発に軸足を置いています。
冬のアウトドアやキャンプシーンだけでなく、こうした新しいライフスタイルの中にも『もちはだ®』が活躍できる場面があると考えています」
半世紀前に生まれた「鷲尾式起毛」という技術は、その普遍的な価値を保ちながら、時代のニーズに合わせてその姿を変えてきた。インナーとして体を温める存在から、ファッションとして心も満たす存在へ。その変革の歩みは、日本のものづくりが持つ底力と、未来への適応力を示している。
「もちはだ®」の挑戦は、これからも続いていく。その暖かさが、ワシオ株式会社の企業理念「世界中から寒いをなくす」を実現する日も、そう遠くないかもしれない。

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