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シマノの「ES インサレーションジャケット 03」は なぜ「釣り専用」を貫くのか?
山でも街でも、オンでもオフでも──。そういったどこでも使えるアウトドアウエアが世の中に溢れている。だが、万能を追い求めるほど、服に与えられた本来の役割は薄まり、個性は失われていく。
そんな現代において、「釣り専用」のコンセプトを掲げるSHIMANO(シマノ)の「ES インサレーションジャケット 03」は異彩を放つ存在だ。素材から構造、ディテールに至るまで、そこには流行もマーケティングも存在しない。目指したのは、「釣り」に必要な機能だけを積み上げた釣り用防寒アウター。
その思想と背景を、株式会社シマノ LSG企画担当の福井達平さんとともに解き明かす。
PROFILE

福井 達平(ふくい たっぺい)
株式会社シマノ
LSG企画担当
株式会社シマノにて、フィッシングウエアとギアの企画を担当。素材の選定から耐久性の検証、現場テストまで一貫して携わる。プライベートでも、船釣りから磯、鮎釣り、タープ行の渓流釣りまで幅広く楽しみ、その知見を製品開発に生かしている。
アングラーの声を反映させた、純度100%の釣り用防寒アウター
2025年9月にリリースされたES インサレーションジャケット 03は、釣りを楽しむ人のためだけに作られたアウターだ。その開発の起点にあったのは、既存のウエアの限界だった。「釣り場には、海水の飛沫、強風、湿度、紫外線など独特の環境があります。アウトドアウエアを流用するアングラーもいますが、釣り場では完全に対応できているとは言えませんでした。そこで、釣りに必要な機能だけを抽出した、釣り専用の防寒アウターを作ることにしたんです」

設計図の基となったのは、アングラーたちの声だった。
「シマノには200名を超える契約アングラーが存在し、その中でも高いレベルの技術を持つ数十名のインストラクターが開発に深く関わります。彼らが実釣テストを行い、その違和感や改善点を開発に生かしています。
さらに現場から上がってきた声をラボで擦り合わせています。シマノは自社内の試験室のほか、第三者試験機関と協業し、海水飛沫、風、湿度、紫外線など釣り特有の環境を再現するノウハウを有しています。
これらと現場で得た課題を基に、撥水性、耐久性などの機能を定量化し、数値と体感のギャップを埋めるための検証を繰り返します」
プロの経験値と綿密な検証データがそろったとき、釣り場で最高のパフォーマンスを発揮するウエアが完成する。
「モデル名の03はシリーズ内での位置付けを表す数字です。01がエントリー、05がスペックを突き詰めた上位グレード。その中間に位置する03は、機能と価格のバランスがもっとも優れたスタンダードラインです」

海水でも撥水性が落ちにくい独自の防水透湿素材
釣り専用という思想をもっとも端的に示すのが、シマノ独自の防水透湿素材「ドライシールド+(プラス)」と海水撥水処理である。「一般的な撥水加工は雨を弾くことを前提としていますが、海水は塩分やミネラルの影響で表面張力が弱く、撥水機能が効きにくいという特徴があります。さらに塩が乾いて結晶化すると、生地表面の撥水を阻害し、表面が染みやすくなるんです」

「通常の撥水処理に加え、生地表面を平滑にすることにより、ぬれて乾いた後でも塩の白浮きが起きにくく、撥水性能の低下も防げます」

素材の表面には独特のハリがあり、強度を感じさせる。
「アウトドアウエアに使われる伸びる素材は動きやすい半面、強度に不安が残ります。釣りはぬれた手で触れる、ロッドを挟む、擦れる、塩が残るなど、生地への負荷がとにかく大きい。そこで表地は織り密度を高めて丈夫さを優先しました。こうすることでけば立ちも起きにくくなり、撥水の低下も防げます」

部位ごとに最適な素材使いで高い保温性を
「冬場の釣りは、体を動かさない時間が長いため、特に寒さを感じやすい。そこで全体の中綿を増量して、腰まわりには保温性の高い起毛トリコットを採用しました。関東エリアの冬釣りであれば、この一着で十分対応できます」中綿には、湿気を吸っても保温性が落ちにくく、乾きも速いポリエステル素材を採用している。冷えやすい部位には多めに、動かす部位には必要最小限にと、部位ごとに中綿量を調整するインサレーションマッピングによって、動きやすさも確保されている。
釣具メーカーの知恵が詰まったディテールワーク
デザインは一見するとミリタリー調だ。しかし、それは見た目から逆算したものではない。実際に着用してみると、その思想が動きの面にも生きていることがよくわかる。「肩まわりと腕にゆとりを持たせた立体パターンにより、キャスト動作やロッド操作、取り込み時の腕上げ動作がスムーズにできます。またシルエットはフリースなどを着込めるようややゆったりめに設計しています」

ディテールには、アングラーの知恵が随所に息づいている。フロントには装備を外付けできるDカンを備え、止水性の高いフラップ付きポケットが身頃と袖の計5ヶ所に配置されている。これにより、ボートでのインショアゲームや船釣りなど、多様なフィールドに対応できる仕様となっている。

左胸のポケットの内側には、偏光サングラスやゴーグルを拭くための着脱式レンズクリーナーを装備している。
「釣り中は跳ねた水滴やそれに含まれる塩気でレンズが曇りやすい。袖や裾で拭くとレンズが傷ついてしまいますが、わざわざクロスを探すのは面倒です。そこで手の届きやすい胸ポケットの内側にマイクロファイバー製のクリーナーをつけました」
ほかにも、袖や脇、肩まわりの縫い目に沿うように静電気を逃がす専用テープを配置している。これは静電気によって釣り糸が通しにくくなるトラブルを防ぐ役割がある。

「万能性を求めず、釣りに必要な機能だけを突き詰めました。3万円台という価格を実現できたのも、余分な機能やデザイン性を徹底的に削ぎ落としたからです」
その一方で、釣り専用として磨き上げたジャケットが、思わぬ広がりを見せている。
「結果的に、街で着ているユーザーも増えているんです。もちろん釣り用ウエアとして機能を重視したつくりにはなっていますが、それだけだとちょっと物足りない……。どうせなら、釣り人が着たくなる格好よさも備えたいと思いました。釣りの最中でも、お洒落であることを忘れたくなかったんです。そんな思いが、結果的にタウンユースされるまでになっているのでしょう」

風が冷たくても、潮が荒れても、体を暖め、キャストの集中を乱さない。冬、このジャケットを着て釣り場に立てば実感できるはずだ。──明確な目的を持って作られたウエアが、どれほど頼りになる存在なのかを。
Text by Ryota Osujo














