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【連載】ものと人のための補助線 #04:山田さんの絵と、本山さんの箱

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
Instagram / Web

アーティストとデザイナーというのは、意外と両立が難しい職業だと思う。もちろんしている人もいるけれど、そう簡単ではない。共通する技能があったとしても、つくり始める際の出発点が結構違うからだと思う。
必ずしもすべてのケースに当てはまるわけではない、と前置きするけれど、メインの仕事が「他者が(潜在的に)求める条件や要望などに応えるモノを生み出す」ことであるデザイナーと、作品を購入する人がいるとはいえ、最終的には自らが選んだテーマで手を動かすアーティストでは、ものづくりの手順が異なるのだろう。
ちなみに、わたし個人は「アートとデザインはわりと違う職能」と考えているし、あまりに当たり前だけれど両者に優劣はないと断言する(だからデザイナーが手掛けた商品に対する「もはやアートですね!」という褒め言葉も「こんなのアートでしかない」という貶しも謎である)。そしてたとえ違う職能の人が生み出したとはいえ、そこにある作品が「アートかデザインか」というのは、正直なところどちらでもいいとも思っている。
前段が長くなったけれど、そんなことを日々考えていたら、面白い展覧会にであった。
笹塚の「centre project」というギャラリーで、今年9月23日から10月23日まで、デザイナーの本山真帆さんと山田悠太朗さんによる二人展「Flatways」が開催された。二人とも、普段はデザイナーとして仕事をしているが、今回の展覧会では個人で制作し続けている作品群を見せていた。
本山さんは日本デザインセンターの三澤デザイン研究室に所属しており、仕事でも少しご一緒したことがある。デザインはもちろん、イラストもうまい方だ。しかし仕事とは少し離れたところで話題になるのは「@hakoyamaho」という彼女のInstagramアカウントだった。
ひたすら、自作の白い箱と展開図を投稿している。どうやって作るの?というような形状の箱も多いけれど、その継続性を驚きながら見ていた。今回の展覧会では、そこに投稿された箱と展開図、そして箱から生まれたコンクリートの塊たちを所狭しと展示していた。
山田さんはデザイナーの田中義久さんの元で働いている。ちなみにcentre projectは、田中さんがアトリエとしても使っている場所とのことだった(デザインとアートの両立で頭に浮かぶ方も多いと思うけれど、田中さんはアーティスト・デュオのNerholとしてもご活躍である)。
普段はグラフィックデザイナーとして活動する山田さんが展示したのは、抽象的な色彩のペインティング。いろいろな種類の紙をはじめ、Amazonの包装紙やビニール袋など、普段の生活を送るなかでストックしておいた素材を矩形に切り抜き、さまざまな手法で着彩していた。これまでも「拾ったもの」を下地とする絵画作品を制作してきたが、今回は自身の2つの活動の接点を探るような作品群を提示したという。
二人の作品はシンプルに魅力的だった。本山さんの作品は、ビシっとした精度感はもちろん、匿名的な箱でありながら、どこか彼女個人の美意識が反映されている。どういう基準で箱を作っているのかと尋ねたところ、誰も理解できないような形状や、超絶技巧的な箱を生み出すことは目的とはしておらず「自身が作る意味のある箱」というコンセプトがあると知った。
パソコンに任せるのではなく、手と頭で理想の形状を考えてから展開図を作ると聞いて、通底する「本山さんの箱らしさ」の理由がわかった気がした。
なお会場では、これらの箱を型としたコンクリートの塊たちが売られていた。なぜコンクリートを選んだのかといえば「箱は紙でできているので柔らかく、ずっとは続かない素材で、そこに悲しさが常にある。だからずっと残るものとして、紙の反対に石的なものがあると思うから」と教えてくれた。
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