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【連載】ものと人のための補助線 #07:「LIQUID」で満たす沖縄旅

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
Instagram / Web

約10年ぶりに、沖縄に行ってきた。完全にプライベートのつもりだったので、最初は取材するつもりはなかったのだが、訪れた店が印象的だったので、ここで書かせてもらうことにした。今回は、お酒の話。
子連れ旅行だと、夜に地元のバーに行くようなことはなかなか叶わない。その代わり、ホテルの部屋で嗜むための良いビールかワインくらいは手に入れたいと、旅先ではほぼ必ず酒屋を訪れる。もともとはそんな目的で立ち寄ったのが、沖縄県・那覇市にある「LIQUID THE STORE (リキッド ザ ストア)」だった。
「LIQUID(リキッド)」は「飲む」モノ・コトにまつわる専門店として、2017年に宜野湾市にオープンした。那覇市の壺屋には2021年11月に移転してきたという。お酒だけでなく、お茶やそれを飲むための道具も、試しに飲める角打ちスペースもある。
代表の村上純司氏は、もともと沖縄県の出身ではない。仕事で何度も訪れているうちに、自分が沖縄でやりたいと思うことに気づいたという。沖縄には年間1000万人もの観光客が訪れて、そのうちの1/5は国外からの訪日客が占める。そのため、「日本のいいもの」が手に入る店を作りたいと考えた。
そこで、人と人が行き交い、観光客と地元の人が交流できる場所を作りたいと考え、「飲む」ことで生まれるコミュニケーションに注目した。古代メソポタミア文明でも人々は盃を交わして祝っているし、1000年以上前の中国でも人々はお茶を淹れて語り合ってきたという歴史もある。飲むこととコミュニケーションはこれからもずっと切り離せない存在だろうと村上氏は考え、LIQUIDは生まれた。
飲むための道具を扱う「GALLERY」、ナチュラルワインを専門に扱う「CELLAR」、茶葉や珈琲、日本酒などの飲み物を扱う「PANTRY」、そして先述した飲食エリアの「STAND」を機能として持っている。
同時に、自家製ハム&ソーセージ専門店「TESIO」やBean to Barスタイルのチョコレート専門店「TIMELESS CHOCOLATE」のコーナーショップもある。どちらも沖縄を拠点にする人気ブランドである。
知らなければ入りにくいであろう外観だが、入り口の少し重い扉を開けると、沖縄にいることを忘れてしまいそうなキンとした締まりのある店内が目の前に現れる。ネオンのサインと、県内の陶芸家である大嶺實清(おおみねじっせい)氏のシーサーがCELLARの上から迎えてくれる。
洗練された隅々まで気が行き届いた空間でありながら、緊張しすぎない雰囲気に仕上がっているのは、手吹きガラス職人Peter Ivy(ピーター・アイビー)氏が手がけた照明がアクセントになっているからかもしれない。店舗内装はTAILANDのクマタイチ氏とA studioの内村綾乃氏が共同設計。アイビー氏の照明から漏れる橙色の光から、全体のデザインをはじめたという。大きなL字型のテーブルが中央に据えられており、取り扱いのある飲み物を角打ちとしていただける。
「沖縄らしいお酒はありますか?」と村上氏に聞いたところ「沖縄には強いお酒しかないですよ」と笑いながらジンやラムを教えてくれた。わたしが購入したのは、ONERUMのシングルアイランドシリーズ。沖縄の8つの島の黒糖から製造される、8種類のラム酒である。約2年間かけて全8種類のラムが作られている最中で、現在売られているのは、西表島のもの。イリオモテヤマネコのラベルがかわいい。
ビールや日本酒用の冷蔵庫もあった。沖縄産の原材料を使用したクラフトビールの一つ「かなさんホワイト(クリフビール製造)」は、名前の通り小麦から作られるホワイトビールだけれど、沖縄県のスパイス(カブチーという沖縄の柑橘が入っている)だけでなく、沖縄産の小麦「島麦かなさん」を使用しているこだわりぶり(こちらも購入)。キャプションも、一つひとつのお酒の特徴がわかるように丁寧に書かれていた。
その他にも、PANTRYのコーナーには沖縄産の無農薬紅茶や、沖縄の果物やハーブを使ったシロップなど、飲み物にまつわるさまざまな商品が置かれていて、お土産探しにも事欠かない。
同じ通り沿いには、人気のモダンな沖縄そばの店EIBUN(新店のSTAND EIBUNはお隣)や、内装設計のデザイン事務所であるLUFTのショップもあり、散策も面白い。
STAND EIBUNはあおさを練り込んだ生麺がおいしかったし、子ども用の椅子や食器も用意してくれていてありがたかった。
またLUFT Shopでは沖縄の製陶所や工房と共同で制作された食器類が購入できるので、器が好きな人は楽しめるだろう。家具のオーダーもできるとのことだった。
沖縄から持ち帰ってきた瓶たちは、これから少しずつ旅を思い出すために飲んでいこう。
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