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なぜ、麻布テーラーの「オーダーウォッシャブルスラックス」は ウール100%なのに洗濯機で洗えるのか?

2025.10.06
ここ数年、自宅の洗濯機で洗えるスラックスが爆発的に売れているという。そのほとんどが、縮みにくいポリエステルなどの化繊もしくは、ウールに化繊がミックスされた生地でできている。
ただ、そういった機能性ファブリックはたしかに洗濯しても縮みにくいが、着心地のよさや風合いの豊かさは、やはりウール100%のほうがいい! という服好きの声は根強い。
本物のウール生地を使った、家庭用洗濯機で洗えるスラックス。そんな理想をかたちにしたのが、麻布テーラーの「オーダーウォッシャブルスラックス」だ。
なぜ、そんなスラックスを作ることができたのか? 商品開発者に完成までの道のりを聞いた。

PROFILE

中村 敦司(なかむら あつし)

メルボメンズウェアー株式会社 生産部長

メルボ紳士服工業株式会社 取締役

青山商事株式会社でフォーマルウエアのバイヤーや品質管理、パターンオーダーの立ち上げを手がけ、2022年に麻布テーラーの母体であるメルボメンズウェアー株式会社の生産部長と、生産部門であるメルボ紳士服工業株式会社の取締役に就任。生地の企画・仕入れを手がけながら、生産管理体制改革の推進にも力を注ぐ。

パーソナルオーダースーツの草分けというべき人気ショップ

まずは麻布テーラーについてご紹介しよう。
「麻布テーラーは、日本でいち早く明快なオーダーシステムを導入したファッションテーラーのパイオニアというべきショップです。全国28店舗を展開し、国内直営工場で仕立てるパーソナルオーダースーツを税込み49,500円から提供しています。その他、オーダーシャツ9,900円、オーダーコート66,000円など、幅広いオーダーアイテムを提案しています。
トレンドにも精通したプロフェッショナルなスタッフが在籍し、生地やオプションのバリエーションも豊富に揃います。サイズはもちろん、多様化するライフスタイルにも、一人ひとりの感性にもフィットする、お気に入りの一着をお仕立ていただけます」
麻布テーラーはインポート生地に加え、自社で開発したオリジナルファブリックも展開している。その代表格が、2005年にスタートした「ワールドトラベラー」だ。
「世界を飛び回るビジネスパーソンのための生地コレクションで、伸縮性や防シワ性、撥水性といった機能性を付与した生地が揃います。そのコレクションに、ウール100%の機能性生地にこだわったワールドトラベラーカスタムというシリーズがあり、2024年にそこに家庭用洗濯機で洗えるウォッシャブルラインを追加しました。オーダーウォッシャブルスラックスはその目玉となるアイテムです」

ウール生地は洗うと縮む!——常識への挑戦

「当時、年々暑さが厳しくなる夏に合わせて、洗えるスーツやセットアップの需要が高まり、麻布テーラーの顧客からも『自宅で洗濯したい』という声が上がっていました。
ただ、一般的なウォッシャブルスラックスに使われている生地はポリエステルがベースのため、本格的なスーツを志向する麻布テーラーにとっては、風合いや質感の点で物足りなさを感じていました。
そこで本格的なオーダースーツを扱うブランドらしく、ウール100%でやれないだろうか、ということで開発がスタートしました」
オーダーなので、ウエストや膝幅、裾幅のサイズ調整や、タックの有無等のデザインも可能
開発では、ウールの性質が大きなハードルになったという。
「ウールは水を通すと『フェルト化』と呼ばれる現象を起こし、膨潤してふくらみます。繊維の表面にはスケールと呼ばれるうろこ状の構造があり、水や熱、摩擦が加わると互いに絡み合って結果として生地が硬くなり、厚みが増し、ウールが抜け落ちてしまうのです。そのため、ウール100%のスラックスは扱いが難しいとされてきました」
セーターが縮んでゴワゴワになるのも、このフェルト化が原因だ。その点、ポリエステルの繊維にはスケールが存在しないため、表面はなめらかで、繊維同士が絡み合うことがない。
一般的なウォッシャブルのスラックスやセットアップに、ポリエステル100%やウールにポリエステルを混紡した生地が多用されるのはここに理由がある。

ウールを洗える秘密は、生地に施した特別な防縮加工!

「従来の防縮加工では、塩素系の薬剤を使って繊維表面のスケール(うろこ状の構造)を削るため、生地がどうしても硬くなったり、ザラついた風合いになってしまうという欠点があったんです。それに対して、今回取り入れた方法では塩素系の薬剤を一切使わず、スケールを樹脂でコーティングすることを思いつきました。
スケール自体を守りながら加工を施すことで、ウール特有の柔らかさやドレープ感を損なわずに、家庭用洗濯機で洗えるようになったんです。
さらに加工後には独自のウォッシュ工程を加えることで、生地のしなやかさや豊かな風合いをいっそう引き立てることに成功しました。その結果、洗濯を繰り返しても形が崩れにくく、シワもつきにくいということが分かったんです。こうして、ウール100%ならではの艶や肌触りをしっかりと保ち続ける生地が完成しました」
中村さんは、洗濯後の生地を触った瞬間、「これならいける!」と確信した。実際にスラックスを製作してテストを行うと一発クリアを果たし、生産コストもそれほど高くなく、従来品との価格差も抑えることができた。
「当初はジャケット+スラックスでの展開を目指していました。ですが、ジャケットにはシルエットや着心地を大きく左右する芯地や肩パッドが不可欠なので、たしかな芯地を使った洗えるジャケットの実現はまだ先の話になりそうです。そのため、まずはスラックスのみで商品化することにしました」
実際にはいてみた感想は、きめ細かな風合いといい、豊かな艶といい、さすがはウール100%生地だ。肌触りもしなやかで心地よく、風通しもいい。
「夏用の平織りの生地を使っているので、軽くて通気性にも優れています。使用するウールは、生地世界でもトップクラスの品質をもって知られるオーストラリア産のメリノウールで、その中でも希少な17.5マイクロンの繊維を使っています」
マイクロンとは繊維の細さを示す単位で、1マイクロンは1,000分の1ミリです。細ければ細いほど高級品とされ、肌触りがなめらかになります。17.5マイクロンはかなり細く、スーパーファインウールに位置付けられ、おもに高級スーツやニットに用いられる。
「オーダーウォッシャブルスラックス」。価格は生地によって異なるが、中心プライスは20,900円~(税込)。納期は約4週間~

“天然のハイテク素材”と呼ばれるウールの特性を最大限に

「そもそもウールって天然のハイテク素材と呼ばれるくらい優れた素材なんです。水を弾きつつ、湿気は吸収するという特性はその最たるもの。ウールは汗をすばやく吸収・放湿、蒸れの原因となる湿気を吸って、逃がしてくれるので、夏でも涼しく過ごすことができるんです」
そう、ウールには撥水性、吸湿性、放湿性という機能に加え、ナチュラルストレッチと防シワ性までも備えている。
「ウールの原毛は元来クリンプと呼ばれる縮れた状態になっており、バネのようなアコーディオン状になります。その状態でパーマのような加工を施し、固定すると、生地は適度に伸びて、元の状態へ戻ろうとする。この性質によってストレッチ性とシワの回復力が生まれます」
ウォッシャブルスラックスの生地バリエーションは19種類。平織り以外にも4種類の綾織り生地がラインナップされる
「洗濯機で洗うと、センタークリースが消えてしまう場合があります。ですが、このスラックスには形態安定性を高めるプリーツセット加工を施しているため、10回洗濯してもラインが残ります。洗濯のたびにアイロンでクリースを作る、という手間を省くことができます」
10回洗濯機で洗ってもセンタークリースは写真の通り
目につきにくい部分にも、はき心地のよさを高める工夫が凝らされている。
「腰裏はオリジナルの2段仕様にしています。さらに上部は特殊な加工糸のポリエステルで、下部はメッシュ素材で仕上げることで、風通しと肌触りのよさを実現しました」
腰ポケットの内側は、通気性と速乾性の高いメッシュ素材にすることで、サラサラとしたはき心地になっている。
ポケットの内側はメッシュを採用
「ヒップポケットの周囲は本縫い押えというステッチで仕上げつつ、さらに腰回りの帯下を芯地だけに貫通させる特殊な縫製技法で、洗濯に耐える強度とはき心地のよさを両立しました」
ヒップのピスポケット周りを本縫い押えステッチに変えるというこだわりも魅力

販売数は前年比108%。着実に人気を伸ばす

発売以来、販売数は順調に増え続け、2025年3月~8月には、1,150本を突破した。
「やはり汗をかきやすい夏場に好評でしたが、今年はまだまだ暑いので、今後も需要が続くと思います。洗えるスラックスは世の中にけっこうありますが、ほとんどがポリエステルベースの生地を使ったもの。
お客様にウール100%と伝えると、驚かれます。リピート率も高く、洗い替え用に2本同時にオーダーする方もいらっしゃいます」
もちろん、ヒップからウエスト、股上・股下、ワタリ、膝、裾幅までサイズ調整することで、高いフィット感を実現するパーソナルオーダーシステムも麻布テーラーの強みだ。
なぜウール100%なのに洗えるのか。その答えは、糸ではなく生地の段階で加工を施すという発想の転換にあった。伝統的なウールの風合いと、現代に求められるイージーケア性を両立したウォッシャブルスラックスは、本物志向のビジネスパーソンの理想を具現化した一着に仕上がった。

Text by Ryota Osujo

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