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猛暑の救世主になるか? 汗のべたつき軽減と接触冷感を両立した、帝人フロンティアの革新素材「COOLSHELL CARAT」の開発秘話

2025.04.08
近年の温暖化の影響もあり、いかにしてクーリング効果を持つ繊維を開発できるかが、他社との差別化に繋がっている。特にスポーツ市場においては、過酷な夏場でも快適なプレーをサポートする衣料が求められてきた。
 
帝人フロンティア株式会社が開発した「COOLSHELL CARAT(クールシェル カラット)」は、従来の常識を打ち破る画期的な素材になるだろう。これまで両立が難しいとされてきた接触冷感機能と、汗のべたつき感を抑えることに成功したのだ。
 
そこで同社の開発部長である尾形暢亮さんに、「COOLSHELL CARAT」の開発背景とそれを可能にした技術をお聞きした。

PROFILE

尾形 暢亮(おがた のぶあき)

帝人フロンティア株式会社 技術・生産本部衣料テキスタイル・製品開発部長

接触冷感素材の欠点

これまで超異形中空断面糸「オクタ」や、ポリエステルとナイロンを融合させた「ミクセルNP」といった驚くべき機能性繊維の開発を行ってきた帝人フロンティア。近年では、エコを意識してマイクロプラスチックの排出を抑制した繊維の開発にも着手している。
 
そのようななか、温暖化によるスポーツ衣料のクーリング機能の需要が高まっていることから、改めて汗処理の問題に取り組み始めたという。
 
「昔から天然素材が多く使われてきました。綿やレーヨン、シルクは素材自体が水分を含んでいるので、冷たく感じられます。
 
また、化繊でも繊維の中に水分を多く含むものは接触冷感性があると言われています。ですが、これらの繊維は汗の拡散性が低く、べたつくということが欠点でした」
 
これまでの繊維では、接触冷感と吸水速乾性は相反する機能とされている。接触冷感をもたらすためには、生地が肌に密着しなければならず、汗とは相性が悪かった。
また、汗のべたつき防止には、肌側を凹凸構造にして肌との接触面積を少なくする必要があるなどこれらをどうにか両立できないか。ここから新たな開発が始まった。

開発された機能性繊維

接触冷感と吸水速乾を両立させるためには、それぞれに特化した機能性繊維が必要だった。それが「ウェーブロン®」と「トリプルドライ® カラット®」だ。
 
最初に開発されたのが「ウェーブロン®」という四つ山扁平の断面を持つ機能性繊維だ。そこに酸化チタンを含ませることで、冷感を発揮する「FD ウェーブロン®」が登場し、数年前から大手アパレルメーカーに採用されている。
 
尾形さんによれば、「FD ウェーブロン®」は接触冷感を訴求した繊維だったが、着用した選手からは汗のべたつき感を抑えられないかという要望があったという。
「ウェーブロン®」を電子顕微鏡で見ると、四つ山扁平の構造がわかる
その解決策を探している間に、別の流れで「トリプルドライ® カラット®」が開発された。吸水糸と撥水糸を適度に配置することで、汗戻りを軽減した構造だ。
だが、撥水糸で用いられている捲縮糸(けんしゅくいと)は温かみを感じやすいため、冷感とは相反する機能だった。
撥水ポリエステルと吸水ポリエステルを凹凸状に配置した「トリプルドライ® カラット®」
そこで同社は、これら2つを組み合わせた素材の開発に着手した。その鍵を握るのが「FDウェーブロン®」の撥水糸を開発することだった。新たに開発された撥水糸と従来の吸水糸をうまく配置することで、肌に接触する部分では冷感を感じながら、べたつきも解消できると期待されたからだ。
 
言葉での説明は簡単だが、「FDウェーブロン®」の撥水糸の開発に際して、苦労した点はあったのだろうか。
 
「しっかりと水を弾けるかが重要になってきますが、そのためには糸に捲縮が存在するかが鍵になります。ところが、『ウェーブロン®』は非捲縮糸なんですね。
 
理論上、最初から水を弾きにくい構造をしているところに撥水機能を持たせようとしていたので、糸の形態や撥水剤の量の緻密な計算に加え、機能の安定性を確保するのにも非常に苦労しました」

驚きの構造と撥水・吸水機能

「COOLSHELL CARAT」の構造体イメージ図
いくつもの壁を乗り越え、常識を覆す「COOLSHELL CARAT」が完成した。電子顕微鏡や光学顕微鏡で生地の断面を見ると、その驚きの構造が広がっている。
 
「肌側を見ていただくと、撥水糸と吸水糸が交互に配置されているのがわかるかと思います。また、これはあくまでも肌側の話であって、表側には『デルタ®』という緻密でフラットな編地の素材を使う2層構造になっています。
電子顕微鏡(上段)と光学顕微鏡(下段)で見た「COOLSHELL CARAT」
通常はこのような構造を採用すると生地自体が不安定になり、凹凸も出やすく引っかかりやすくなります。それでも冷感と撥水を両立させるためならばと、このような思い切った構造を選びました」
 
尾形さんが言うように、「COOLSHELL CARAT」は帝人フロンティアの技術の結晶とも言える新素材だった。そのため、性能については疑いの余地もないだろう。その吸水性と撥水性は実験動画でも明らかにされている。
「COOLSHELL CARAT」に色水を垂らすと、吸水と撥水の境目がはっきりと浮かび上がる
「クーリング性能については、業界で認知されているJIS法で確認をしています。室温から+20度に加熱した熱原板を試料に接触させる実験で、熱伝導率を表す接触冷感Q-maxが0.2W/cm2(⊿T=20℃)以上という結果を得られました。
一般的に、0.2W/cm2以上あれば接触冷感機能があると認められるので、充分効果はあるということになります。蒸れやべたつきを防ぐ通気性も申し分ありません。
 
また汗処理機能もカラットと同じ構造を持っているので、同程度の速乾性を有していることがわかっています。撥水糸が混合されているので、洗濯後もすぐに乾くというありがたい機能を持ちます。
 
さらには、環境への配慮ということで、PFAS(有機フッ素化合物)フリーで、しかもウェーブロンの糸自体もリサイクル100%のものを使用しています」

スポーツ衣料から熱中症対策、そしてファッション全般まで

COOLSHELL CARATを使用した衣服
これほどまでの性能を持つ「COOLSHELL CARAT」は、今後どのような展開を目指すのだろうか。
 
「2025年には100,000m、2028年には1,000,000mの販売を目指しています。これまで接触冷感のような機能を求めるのはアジア圏が中心でした。ところが、近年の温暖化の影響で、ヨーロッパからも声が届くようになりました。そのため、これらの数字は希望的観測ではなく、実現可能なものだと信じています」
 
「COOLSHELL CARAT」は、国内外でも通用する性能を秘めたものだと尾形さんは語る。そのため、当初のスポーツ衣料としての使い道以外も検討しているようだ。
 
「当初はスポーツ用途にフォーカスしていましたが、機能面を考えれば、企業の制服やインナーにも適したものになりますので、熱中症対策のアイテムなど幅広い展開を目指しています。
 
ただ、素材的にはどこかスポーツライクな雰囲気が出てしまうので、そこは表地の『デルタ®』から別のものに変更するとか、弊社の技術でプラスチック感の風合いをよりよいものに変えていくというのもひとつの手だと考えています」
 
すでに同社では展示会を数ヶ月に1度のペースで開催しており、顧客とのやり取りを通じて市場が求める素材作りに勤しんでいる。尾形さんも「COOLSHELL CARAT」はまだまだ進化していくと話してくれた。
 
今年の夏、「COOLSHELL CARAT」は大きな注目を集めることになるだろう。

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