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感度の高いプロが今、ウィーン発バッグブランド「SAGAN Vienna(サガン・ヴィエンナ)」を選ぶ理由

2026.03.04
モードの最前線に立つスタイリストやファッションエディターの間で、信頼を集めてきたブランドがある。2016年にオーストリア・ウィーンで誕生した「SAGAN Vienna(サガン・ヴィエンナ)」だ。
過剰な装飾や明快なアイコンに頼ることなく、造形の精度、素材への眼差し、そして使われ方そのものにまで思考を巡らせるその姿勢は、感度の高いプロフェッショナルほど見逃さない。日常に近い存在でありながら、そこに完全に溶け込むことなく確かな違和感を残すバッグ。その背景にあるのは、「見慣れたものに、もうひとつの視点を与える」という独自のデザイン哲学である。共同設立者2人の言葉を手がかりに、「SAGAN Vienna」の思考を紐解いていく。

PROFILE

左から:ターニャ・ブラダリッチ(Tanja Bradaric)、 大前太郎(おおまえ たろう)

SAGAN Vienna 共同設立者

相反するものが共存する都市、ウィーンから生まれた思想

ウィーンという都市は、常に相反する価値観を抱え込みながら、独自の美意識を形づくってきた。過剰な装飾と厳密な合理性、感情の表出と制度としての規律、あるいは歴史への執着と前衛への欲望。こうした緊張関係は過去の様式として封じ込められているのではなく、今もなお建築や工芸、生活文化の中に息づいている。2016年に誕生した「SAGAN Vienna」は、まさにその矛盾を前提とする都市から生まれた。
ブランドを立ち上げたのは、クロアチア出身のターニャ・ブラダリッチ(Tanja Bradaric)と、日本出身の大前太郎である。2人はウィーン応用美術大学で出会い、ラフ・シモンズ、ヴェロニク・ブランキーノ、ベルンハルト・ウィルヘルムといった、時代を切り拓いてきたデザイナーのもとでデザインを学んだ。
その後、共にパリへと渡り、「Chloé(クロエ)」や「Balenciaga(バレンシアガ)」といったラグジュアリーメゾンで経験を重ねている。ウィーンで培われた構造的思考と、パリで体得したラグジュアリーの実践。この両極を行き来した経験が、リラックスしたエレガンスと静かな独自性を備えた「SAGAN Vienna」の思想的な基盤を形成した。
彼らの創造性を刺激するのは、造形芸術家の生産共同体として知られるウィーン工房や、19世紀末に生まれたゼセッション(分離派)様式に見られる、合理的な設計と官能的なディテールの共存である。それらは着想源というよりも、思考のリズムとして作品に内在している。
また、日本語の「左岸」を由来とするブランド名は、独創的な非共形性、つまり型にはまらない感性を象徴しており、主流から一歩引いた視点を持ち続ける彼らの姿勢と強く共鳴している。
トレンドのスピードから距離を置くウィーンという場所は、素材に対する誠実さや10年後も意味を持つデザインへの集中を可能にするが、同時に彼らはこの街の静けさに抗い、意図的な「摩擦」や「現代性」を差し込むことで、その美学を常に更新し続けている。

生活の所作がバッグを形づくる

一見するとミニマルで主張を抑えた佇まいだが、そこには完全な均整とは異なる「人の手の気配」が確かに存在する。デザインの起点となるのは、具体的な文化的記憶や生活に根付いた所作だ。
こうした思想を具現化したのが、ブランドを象徴するコレクションの数々である。ウィーンの街を走る馬車文化から着想を得た「REINS(レインズ)」は、馬具の手綱をモチーフにした独創的なハンドルが特徴だ。伝統的なequestrian(馬術)の職人技への敬意を払いながら、現代的なエッジを加えている。
Reins Bucket S
また、日本の伝統的な製本技法をバッグの構造に落とし込んだ「WATOJI(和綴じ)」や、ウィーン伝統の籐細工を思わせる編み込みを施した「HANDWOVEN(ハンドウーブン)」。そこには、日本の風呂敷包みにおける柔軟な包摂性や、和綴じの可動性が翻訳され、現代的なバッグというフォーマットへと昇華されている。
Watoji Collection day runner 28 brown
Pazar tote boat Handwoven
すべての製品は、ウィーンおよびヨーロッパの熟練した職人の手によって丁寧に製造されている。「バッグを単なる“物”ではなく、人生のリズムに寄り添う存在にしたい」という2人の願いは、使い手に特定の用途を強いることはない。
たとえば、本を運ぶために設計された「PAZAR BOOK TOTE(パザー ブックトート)」。ユーザーはその外ポケットに、ある日は文庫本を、別の日は水筒を、またある日はコーヒーカップを入れて歩く。そのように用途が固定されず、日常の流れに応じて自然に変化していく時を超える柔軟性にこそ、彼らは真の美しさを感じている。
PAZAR BOOK TOTE
瞬時に理解されるデザインではなく、時間をかけて日常に染み込み、生活の中で育っていく存在。それこそが、彼らの志向するバッグの在り方である。

使われ続けることから始まるラグジュアリーの未来

こうした思想は、素材開発やサステナビリティへの向き合い方にも一貫して反映されている。ワイン製造の副産物から生まれたグレープレザーの採用も、単なる流行の代替素材としてではなく、耐久性や経年変化を徹底的に検証した上での判断だ。伝統的なレザーについても、トレーサビリティや水資源管理、化学物質の制御といったプロセスを可視化し、改善を積み重ねる姿勢を崩さない。
「もっともサステナブルなのは、長く使われるプロダクトである」という信念に基づき、新しいモデルの導入時には、構造や摩耗について徹底的にテストし、長期的な問題となり得る要素を事前に洗い出す。彼らにとっての長寿命とは、変化を拒むことではない。持ち主と共に生き、適応し、歳を重ねながら、シーズンではなく年単位で意味を持ち続けることである。
修理の依頼が届くことも、バッグが時間を共に過ごしてきた証しとして歓迎される。物は壊れ、直され、再び使われる。その反復の中で、プロダクトは個人的な存在へと変化していくのだ。
最新のテクノロジーに対する姿勢もその延長線上にある。彼らが関心を持つのは、目に見える仕掛けではなく、素材の来歴を伝え、修理へと自然につなげる「見えない知性」としての情報設計である。
「SAGAN Vienna」が提示するコンテンポラリー・ラグジュアリーは、誇示や即時的な満足から距離を置き、静かで思慮深く、人の生活に寄り添う価値観に基づいている。物がどのように使われ、どのように歳を重ね、関係性を育んでいくのか。その問いを手放さない姿勢こそが、ファッションとテクノロジーが交差する現代において、ひとつの確かな未来像として浮かび上がってくる。

Text by ELIE INOUE

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