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ウクライナ発リネンブランド「Sea Me Linen(シー・ミー・リネン)」:戦火のオデーサで貫く、国内生産への誇り

2026.02.16
黒海を臨む港町、ウクライナ・オデーサ。かつてリゾート地として栄えたこの地で、ナターリヤ・イシチェンコとエテリ・サネブリゼは、ライフスタイルブランド「Sea Me Linen(シー・ミー・リネン)」を育んできた。
暮らしのリズムを刻む波の音、そこに息づく静けさ、そして天然素材が放つ繊細な揺らぎ。その3つが溶け合う場所から生まれたこのブランドは、“毎晩潜りこむ小さな海”を日常に届けることを哲学としている。
リネンという素材との運命的な出会いから、受注生産が守るサステナビリティ、そして戦火の中でも絶やさぬものづくりまで――。ナターリヤが語る、ブランドの歩みを辿る。

PROFILE

ナターリヤ・イシチェンコ(Natalya Ishchenko)

Sea Me Linen 共同設立者

ナターリヤ・イシチェンコ(左)とエテリ・サネブリゼ(右)

海へとつながる素材との出会い

旅を重ねていた20代のある日、2人はパリの小さなショップで一枚のリネンシーツに出会う。それは、彼女たちの価値観や世界観を根底から変える出来事だった。「その布が、それ自体でこれほど強い“個性”を持つことに驚いた」とナターリヤは振り返る。
均質で滑らかなコットンに慣れていた2人にとって、リネンが持つ独特のテクスチャーは衝撃的だった。植物の生命力を感じさせるネップ(節)や、光の当たり方で表情を変える柔らかな光沢。「リネンはまるで自分の人生を生きているかのよう。使うほどに肌に馴染み、成熟していく」。その経年変化(エイジング)を楽しむ素材との出会いは、彼女たちに「生きるスピードを緩める」という気づきをもたらした。
オデーサに戻った2人は、自らの手で理想のリネン製品を作ることを決意する。ブランド名「Sea Me」には、「Sea(海)」に身を委ねることと、「Me(自分自身)」に立ち返ることが同義であるという直感が込められた。彼女たちは、寝室を「毎晩潜りこむ海」へと変えるささやかな革命を目指したのである。

“より少なく、より良く”という成熟の哲学

20代の頃は、機能性さえ満たせば寝室のしつらえに無頓着になりがちである。しかし、外の世界の刺激だけでは満たされなくなったとき、人は内側の環境に目を向けるようになる。2015年の創業以来、彼女たちが掲げるのは“valuing fewer, better things(より少なく、より良く)”という思想だ。
「Sea Me Linen」の製品は、すべてオーダーを受けてから一点ずつ縫い上げられるプレオーダー制をとる。これは、素材を無駄にしないというサステナブルな観点に加え、一点一点に作り手の体温を宿すための選択だ。
使用されるのは、有害物質を含まないOEKO-TEX®(エコテックス)認証を得た、ヨーロッパ産の高品質なリネン100%である。特に、独自のストーンウォッシュ加工を施した中厚手の生地は、新品でありながら何年も使い込んだような、くたっとした絶妙な「落ち感」と柔らかな肌触りを併せ持つ。
また、カラーパレットの美しさも特筆すべき点だ。「Sand(砂)」「Moss(苔)」「Graphite(石墨)」といった、自然の情景を映したニュアンスカラーは、単体ではもちろん、異なる色同士を重ねても見事な調和を見せる。ファッションにおけるレイヤード(重ね着)のように、枕カバーやシーツの色を組み合わせることで、空間に奥行きを生み出すことができるのだ。

戦火でも続けるという選択

自分たちのペースでものづくりを続けてきた彼女たちを、2022年のウクライナ侵攻が襲う。
「命が脅かされるなかで、寝具を作ることに何の意味があるのかと考えることもありました」
一時は絶望に沈んだが、彼女たちは生産拠点を国内に留める決断を下した。
「ウクライナはブランドのDNAそのものです。電力が途切れるアトリエでの作業は困難を極めますが、ここで作り続けることが、私たちの誇りであり、国を支える手段なのです」
その真摯な姿勢は、製品を通じて世界中の顧客へと伝わり、支援の輪を広げている。

境界のないライフスタイルへの広がり

現在、「Sea Me Linen」の世界は寝具に留まらない。身体を締め付けない開放的なシルエットのラウンジウエアや、食卓を彩るテーブルリネンへと広がっている。特に、リネン特有の清涼感と吸湿性を生かしたウエアは、室内着としての寛ぎと、外へ着て出ても遜色のない洗練されたデザインを両立させている。
リネンパジャマ「ODESA SET」。故郷を離れ新たな環境へ溶け込んでゆく、ウクライナの人々の姿に重なる海を象徴するストライプ柄が特徴だ
リネンパジャマ「KIMONO SET」。身体の動きを妨げない自由な着心地、葛飾北斎が描く波を彷彿とさせるワイドな袖、そして優雅に流れるシルエットが特徴的
ナターリヤは、いつか日本、特に東京に店舗を構える夢を抱いている。「最先端の都市でありながら、職人技(クラフトマンシップ)を深く尊重する日本の文化は、私たちの価値観と深く響き合うはずです」と彼女は語る。
「海のそばで暮らすとは、世界の喧騒から離れ、自分の声に耳を澄ませること」
「Sea Me Linen」が紡ぐのは、効率を求める現代社会で見失いがちな、内なるリズムを取り戻すための物語だ。海と、素材と、手仕事。それらが重なり合って生まれる静穏な布は、今夜も誰かの人生をやさしく包み込んでいる。

Text by ELIE INOUE

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