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デザイナー・中尾隆志が紡ぐ“現代クチュール”──日本とフランスの美学が融合する新世代ブランド「TKA(テーカーアー)」

2025.08.01
2023年、パリを拠点に日本人デザイナー中尾隆志によって設立された「TKA(テーカーアー)」は、ラグジュアリーメゾンで磨いたクチュールの手仕事と精緻なカッティングを、現代の日常着へと昇華させるブランドだ。
本記事では、その背景にあるデザイン哲学、日本とフランスの2つの文化を融合させる独自の美意識、そしてブランドの未来像を、中尾さん自身の言葉で紐解いていく。

PROFILE

中尾 隆志(なかお たかし)

NY、PARIS在住のファッションデザイナー。日本の大学でフランス文学を専攻後、パリに渡り、ラグジュアリーメゾンでの経験を経て2023年に自身のブランド「TKA PARIS」を設立。クチュールの手仕事やカッティング技術を現代的なウエアに落とし込み、日本とフランスの美学を融合した新たなモードを発信している。

パリでの偶然が拓いた道、クチュールの真髄に触れた経験

デザイナーへの道のりを教えていただけますか?
もともと日本の大学でフランス文学を専攻していました。昔からファッションは好きでしたが、自分で作ることになるとは考えてもいませんでしたね。きっかけは、服飾専門学校に通っていた姉の存在です。家でポートフォリオを作ったり、服を仕立てたりする姿を見て、ファッションデザインに興味を持つようになりました。
その後、語学習得のためにパリへ渡ったのですが、ある日コインランドリーで偶然にも姉が通う専門学校の先生に、「ファッションに興味はありますか?」と声をかけられたんです。その出会いが、本格的にこの道へ進む第一歩でした。
その先生の紹介でインターンシップの機会を得て、最終的には憧れのデザイナーだったHaider Ackermann(ハイダー・アッカーマン)のメゾンで働くことになります。そこから僕のデザイナーとしてのキャリアが始まりました。
ED02( Sculptural )のムードボード。Edition という形でカプセルコレクションを展開
ボッテガ・ヴェネタやランバン、ルイ・ヴィトンなどのメゾンで働いてきた経験は、TKAを支える哲学にどのように影響していますか?
いわゆるトップデザイナーたちと仕事を共にするなかで、ドレーピングから縫製、生地選びに至るまで、最上級の服作りを目の当たりにしてきました。
そこには、あらゆる部署にそれぞれの「クラフトマン」がいました。美を追求するアーティスティックディレクターも職人ですし、一着の服を寸分の狂いなく、そして美しく仕上げる縫製担当者も職人です。日々彼らと働き、その技術や哲学を肌で感じた経験は、何物にも代えがたい財産です。
こうした環境で仕事をするうちに、自分の中でのクオリティの基準が自然と引き上げられていきました。「自分にもこのレベルのものが作れる」という確信が持てたとき、自身の世界観を表現する服作りをしてみたいという思いが芽生え、ブランドの設立へとつながったのです。TKAの根幹にある価値観は、この「クオリティ」に行き着くと考えています。
ED02のコート。リバ仕立て : 2枚の生地を1枚に縫い合わせて一重仕立てに見せる高級縫製技術

2つの文化が生む「品位」、そぎ落とされた美の追求

TKAの服は、日本とフランスの美学を融合している点が特徴的です。2つの文化はデザインにどう現れていますか?
フランスのクチュールが大きなインスピレーション源として存在します。ただ、その伝統的な技術のすべてが現代のライフスタイルに合うわけではありません。素晴らしい技術に憧れつつも、それを日常で着られる服にどう落とし込むか。その翻訳作業に、日本人としての自分の感性が生きていると感じます。
フランスのデザインは、時にデコラティブでショーピースのような華やかさが得意ですが、日本人はそのエッセンスを巧みに抽出し、シンプルに、ミニマルに凝縮する力を持っていると思います。それはフレンチのコース料理を、コンパクトでありながらパワフルな一皿に再構築するような感覚に近いかもしれません。
この「凝縮する力」こそが、コンテンポラリーでモダンな表現につながると信じています。クチュールの技術を用いながらも、見た目はあくまでモダンであること。TKAでは、この2つの要素の融合をブランドの強みとしていきたいです。
インスピレーションからスケッチやモックアップでコレクションを進めてムードボードにしていく
デザインで追求している「品位」や、中尾さん個人にとっての美しさの定義とは何ですか?
着る人の品位が上がるような服、その人が美しく見える服を届けたいと強く思っています。
僕にとっての「品位」や「美しさ」とは、分かりやすく言うと「ごちゃごちゃなアイデアをスッキリと磨き上げる」ことです。さまざまな要素が過剰に混ざり合ったものには、あまり美しさを感じません。彫刻家のコンスタンティン・ブランクーシの作品のように、無駄をそぎ落とし、物事を抽象化していくプロセスから生まれる美しさに強く惹かれます。
だから、服作りにおいても過剰なディテールを追い求めることはしません。ルイ・ヴィトンで働いていた頃は、襟やカフスのディテールを何十個も探して組み合わせるような仕事もしましたが、自分自身の表現としては、もっとシンプルでいいのではないかと感じています。人が服をまとって綺麗に見えるために本当に重要なのは、生地、色、そして形。その3つの要素で決まるのではないかと考えています。
garzatura (ガルザチュ−ラ)と呼ばれる自然のアザミの実を回転ドラムに取り付け、生地の表面を軽く引っかくようにして繊維を起こす技法。機械による金属針ではなく、アザミの微細な棘で繊維を優しく引き出すため、非常に柔らかく自然な毛羽立ちが生まれます

手と好奇心で紡ぐクリエイション

TKAの服は、どのようなプロセスで生み出されるのでしょうか?
多くの場合、一枚の生地から始まります。心惹かれる生地を見つけたら、まずそれをトルソーの上にのせ、ピンを打ちながらドレーピングし、生地がどう動くのか、どんな形になりたいのかを探っていきます。
ラフスケッチは描きますが、何度も絵を描いてデザインを詰めるより、実際に布を触り、立体で形作ってみるフィジカルなプロセスを大切にしています。このアナログな手仕事こそが、ラグジュアリーの本質であり、TKAのコアバリューでもあります。
最初に大まかな形を自分の手で作り、方向性を定めてからパタンナーに渡すことで、イメージの齟齬も少なくなります。デジタルでは決してできない、作りながら考えるという身体的なアプローチが、ブランドの創造性を支えています。
フィジカルに実際のマネキン状で立体的に試行錯誤していく
パリを拠点にするメリットや、ファッション以外のカルチャーから受ける影響はありますか?
パリに拠点を置く理由のひとつは、日本人として母国を客観視する視点を持てることです。また、この街は歴史とあらゆるカルチャーが共存しているにもかかわらず、非常にコンパクトです。美術館や映画館、さまざまな場所に気軽にアクセスでき、一日で凝縮された文化体験ができます。この環境はクリエイションにとって大きな利点です。
インスピレーションはファッションだけにとどまりません。彫刻や建築、1980年代や90年代の映画、音楽など、あらゆるものから影響を受けています。ボッテガヴェネタで勤務していた頃にディレクターのトーマスマイヤー氏がよくおっしゃっていましたが人間にとって好奇心は非常に重要です。好奇心があるからこそ、人は新しい場所へ行き、新しい人と出会い、さまざまなものを見聞きする。それが人生を豊かにし、クリエイションの栄養素になります。
また、90年代のヘルムートラングのコレクションなどは、一見すると普通のミニマルな洋服に見えますが、その背景には多様なカルチャーのエレメントが感じられます。ただ表面的にミニマルなものを作っても、それは面白みのない、空虚なものになってしまう。多様なカルチャーをインプットし、それを自分の中で消化・凝縮させて、初めて深みのあるミニマルが生まれるのだと思います。
ヨーロッパを中心とした世界各地のミルのアーカイブに触れながら、タイムレスな美しい生地の着想を得ています

顧客と密につながる、新しいクチュールの形

お客様からのフィードバックは、デザインにどう影響しますか?
お客様からのフィードバック、特に批評は、コレクションのクオリティをさらに高めるための、とても重要なソースだと考えています。
自分の作った服に対して、厳しい意見をいただくこともあります。しかし、それを真摯に受け止め、次のクリエイションに生かすことで、ブランドはレベルアップできると信じています。ただ「綺麗だね」と言われるだけでは、そこからの成長はありません。「つまらない」と言われたら、「なぜそう感じたのだろう」と深く考える。そのプロセスこそが、自分を、そしてTKAを前進させてくれる原動力です。
クチュールテイストのトップスやケープにシンプルなスリップドレスやジャージードレスを組み合わせる
今後のブランドの展望や、5年後のビジョンについて教えてください。
将来的には、いわゆるプレタポルテのブランドという枠組みを超えて、お客様一人ひとりと、より親密でパーソナルな関係を築いていきたいと考えています。
かつてのクチュールメゾンが小さなサロンで顧客だけを招いてショーを行ったように、スモールで強いつながりのあるコミュニティを作っていくのが理想です。
サイズやフィット感など、よりパーソナルな要望に応えるセミオーダーのサービスも、トランクショーのような形で定期的に行っていきたいです。5年後には、こうしたクチュールサービスがビジネスとしてしっかりと機能している状態を目指します。まずは小さなプライベートイベントから始め、少しずつTKAの世界を広げていきたいです。
伝統的なクチュールの在り方を現代的に再定義し、作り手と使い手がより親密な関係を築くTKA。その挑戦は、これからのラグジュアリーの形を問いかけている。

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