2018年10月から始まったFashionTechNews、今年は4月にリニューアルを行い、新たな形での再スタートとなりました。昨年と同様に新型コロナウィルスの影響も続く一方、コロナ禍で芽生えた新たな潮流が大きなムーブメントへと発展し、新たな可能性も感じる1年でした。そんな2021年を、FashionTechNews編集部が今年配信した記事とともに振り返ります。
2021年、Fashion Tech Newsにて最も読まれた記事は、リニューアル記念のインタビュー特集における千葉雅也さんの記事。ファッションの無駄や過剰さをどう考えていくかという投げかけは大きな反響を呼びました。
今、環境問題やポリティカルコレクトネスの問題を考慮してファッションの無駄や過剰さが反省される局面に入っていますが、その方向で洗練が進んでいくのが基本線でしょう。それに対して、僕としては、その趨勢全体に抵抗するようなファッションがどうすれば可能か、そういうことをやる人がどうすれば出てくるのかと考えています。
それは人類史のある種の「正しい」方向に逆らうようなファッション、つまり悪のファッションです。今後のファッションの世界において悪はいかに可能か。ファッションにおける否定性をどう考えるかということです。否定性をなくせばいいのではない。あるいは、「歴史の終わりと闘うファッション」です。そこに僕は興味がありますね。(インタビューより抜粋)
Fashion Tech Newsでは今年、ファッション/ファッションテックの潮流を発信すると同時に、それを捉えるための枠組みとなる議論の場となっていくことを目標に、思想や文化を掘り下げる記事を数多くお届けしてきました。今後もぜひ、ご期待ください。
最近、Facebookを始めとした大きなIT企業からメタバース構想が発表されるのをよく見ますね。ただ、僕はそこで提案されているソーシャルVRにおけるファッションの捉え方に違和感を抱くことが多いです。具体的に言うとファッションやアバターの自由度の無さ。この方向性のままメタバースを実現されたら、ファッション的には完全にディストピアとなると思っています。そのような未来を防ぎたい、バーチャル空間がファッションのユートピアであるように、「無限の自由度があってこそのファッションだし、自由なファッション抜きにメタバースは成立しえない」ということを訴えていきたいです。(インタビューより抜粋)
こういった先駆者たちの思想が、そして挑戦が、どのように業界全体に影響を与えていくか。来年も引き続きバーチャルファッションの展開には注目していきたいと思います。
国内外のファッションテックのサービス/プロダクトを紹介する記事のなかでは、ボタン1つでバーチャルサンプルをモデルの画像に合成できるソフトウェアとプラグインを日本で代理店展開する株式会社アベイルへのインタビューが、最も注目された記事となりました。
デジタルな衣服のアクチュアルな活用の方向性として、コロナ禍でEC市場が拡大する傾向にあるなか、加速する消費のスピードに対応するためのバーチャルサンプルの導入が業界全体で推進されています。こちらの記事の他にも、3D関連の取り組み事例は、今年とても多く取り上げたトピックとなっています。
昨年、「あつまれ どうぶつの森」などのゲームとともに注目されたバーチャルファッション。冒頭で紹介した今年の人気記事からもわかるように、2021年はさらなる盛り上がりをみせていました。いっそうバーチャルファッションへの注目が高まるなか、VRChatのようなプラットフォームにて多様なアバターが集い、新たなコミュニティを形成していました。そういったなか、フィジカル/バーチャルを越境するファッションの在り方を提示する「fale」のようなプロジェクトも登場。
パンデミックの状況下では、「あつまれ どうぶつの森」や「Fortnite」といったオンラインゲームが実質的にコミュニケーションツールとして機能するケースも。アバターに服を着せることをめぐる松永伸司さん執筆のコラムも注目を集めました。
世界では、初のデジタルファッションハウスとしてデジタルファッション領域を牽引してきたThe Fabricantが「The Fabricant Studio(ザ・ファブリカント・スタジオ)」をローンチし、誰でもアクセス可能なバーチャルファッションデザインを行え、その服はメタバース空間で着用できるという場の提供を開始、NFTでの取引も可能に。NFTに関するファッションの取り組みは、今年に入って劇的に増えてきた印象です。
サステナビリティは業界の重要なテーマとして、多様な取り組みが登場しつづけています。たとえばオーストラリア、シドニー発のファッションテクノロジー企業Citizen Wolfは、テクノロジーを駆使したオンデマンド生産で二酸化炭素の排出量を少なくとも48%削減できる手法を展開。ファッション業界における環境負荷の問題を深刻に受け止め、抜本的な構造の見直しを構想しています。
サステナブルな産業構造の実現には、生産だけでなく廃棄も大きく関わってきます。スウェーデンのリサイクル企業・Renewcellは廃棄されたセルロース繊維を再利用し、従来のリヨセル・ビスコース繊維生産工程にそのまま原料として使用できるCirculose®の生産を可能に。H&Mとのパートナーシップも展開し、注目されています。
このように世界規模でサステナビリティへの取り組みが加速するなか、日本において、この領域をリードするプレイヤーたちの思想に迫る記事もお届けしてきました。サステナビリティを実現するために必要な探究の精神、プロトタイプの重要性、次世代への継承などをめぐる対話を展開した、株式会社ゴールドウイン/ニュートラルワークス事業部の大坪岳人氏、Synflux株式会社 代表取締役でスペキュラティヴ・ファッションデザイナーの川崎和也氏の対談記事も、多くの方に読まれていました。
このようなサステナビリティの取り組みの展開のなかでも、特に注目を集めるアプローチのひとつが、焼却することなく処分することが可能な生分解素材の使用でした。それは単に環境負荷の少ない処分方法の実現というだけではなく、微生物や土壌といった環境との共創から持続可能性を考える取り組みでもあります。
Fashion Tech Newsにおいても、こういった分野に取り組む研究者やクリエイターのインタビューもお届けしてきました。九州大学大学院の池永照美さんは、世界中で古くから人間の生活に根付いていた蚕糸をめぐる研究に取り組み、蚕に繭を作らせない平面吐糸、セルロースと組み合わせた新たな素材開発など、伝統的な養蚕の形とは異なる多様なアプローチを探究。蚕やアリといった生物の力を借りたクリエーションもというユニークな試みも行っていました。
またFashion Tech News初の特集企画も、「生命の循環:装いの歴史と未来」という大きなテーマでファッションレーベルwrittenafterwardsのデザイナーであり、「ここのがっこう」の主宰でもある山縣良和氏を迎えて記事をお届けしました。ファッションの循環、素材と人間の生活の繋がりへの山縣氏の着目も掘り下げながら、循環社会やエコロジー思想に関連するインタビューなども実施しました。
コロナ禍でECやバーチャルとオンライン化の傾向にありましたが、今年に入るとリアル店舗の重要性を再度提示するような取り組みも増えた印象です。そのなかでもECとリアル店舗をつなぐようなOMO(Online-Marged-Offline)施策の例も多く、ポストコロナを見据えた店舗の在り方が模索されています。
業界全体でのサステナビリティへの意識の高まりを背景として、1.5次流通に着目したサービスも登場しました。
オンラインでもオフラインでも、コロナ禍で登場した新たな接客体験が定着しつつあります。特にリアルタイムでの配信機能を用いたライブコマースは、Instagram上や専門プラットフォームのなかで盛り上がりを見せ、幅広いブランドにて取り組まれています。コロナ禍においては店舗での接客の代替として、また今後は新たなプロモーション手法として定着していきそうです。
昨今ではビューティー市場においても、コロナ禍にてリテールテックの導入が進んでいます。たとえば、リモートにてカウンターのタッチアップ体験を行うことができるものや、店頭やSNSを経由したARタッチアップなど、新たなテクノロジーを用いた購買体験が提供されています。
コロナ禍で登場した新たな潮流を広く展開させた2021年、ポストコロナのファッションの未来をポジティブにも期待できたかと思います。特にバーチャルファッション、バイオファッションのような領域を中心に、多様な取り組みが推進されました。
コロナ禍で感じたファッションのもつ楽しさや豊かさ、そして乗り越えなくてはならない課題も含め、持続可能な産業としていくための探究がより一層、重要となっています。2022年もファッションテックという思想と実践について、Fashion Tech Newsは様々な情報や企画をお届けしていきます。
2021年、Fashion Tech Newsをご愛読頂き、ありがとうございました。リニューアルした新たな企画、お楽しみいただけましたでしょうか。2022年は1月7日より配信します。