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紫外線対策の常識を変える「EPOCHTEX®」:エポカルが目指す“予防医学のための衣服”
株式会社ピーカブー代表取締役の松成紀公子さんが立ち上げたブランド「EPOCHAL(エポカル)」。原点は、アトピーと診断された一人の息子を守りたいという切実な思いにあった。その思いは、やがて理研インキュベーションプラザ(理化学研究所敷地内)での研究へと繋がり、紫外線対策ウエアの概念を更新する新素材「EPOCHTEX®(エポックテックス)」の誕生へと結実する。
今回、株式会社ピーカブー 代表取締役社長の松成紀公子さんに同素材の開発背景について取材し、いかにして科学的な根拠に基づく高機能素材を生み出し、世界中の人々の希望になろうとしているのか、その軌跡を追った。
PROFILE

松成 紀公子(まつなり きくこ)
株式会社ピーカブー 代表取締役
エポカルブランドプロデューサー、デザイナー
始まりはアトピーの息子を守るための一着
紫外線対策ウエアブランド「エポカル」の物語は、松成さんの息子が1歳を過ぎた頃、アトピー性皮膚炎と診断されたことから始まった。外出から帰ると脚が赤く腫れ上がり、皮膚科を受診したことで病名が判明した。さらに医師から「日焼け対策をしたほうがいい、アトピーがもっと悪化する可能性がある」と告げられたという。「自宅にどうやって帰ったのか覚えていないほどショックを受けたのは、知人が酷いアトピーだったから。しかし、日焼け対策さえ徹底すれば健康に育つと考え、ベビーカーに分厚いタオルをかけて影を作り紫外線を防ぐ生活を始めました」
百貨店などで子ども用品を探し回ったものの、当時は紫外線対策用の製品が市場に存在しなかった。子どもも成長し歩き回るようになると、タオルでの対策にも限界があった。
こうなったら「着て歩ける木陰」を自作するしかいない。そう考え、手芸店に足を運び、「KS5150」というUVカット効果を持つ素材に出会った。それを息子のために縫い上げ、最初の一着を完成させた。これが、のちに多くの人々の肌を守ることになる「エポカル」の原型となった。
息子のために生まれた一着が、同じ悩みを持つ人々からの共感を集め、紫外線対策に特化したブランドを確立する原動力となったのである。
既存のUVカット素材が抱える課題
ブランド設立当初の日本においては、日焼けした肌を健康の象徴とする認識が社会的に広く浸透していた。松成さんは神戸大学名誉教授の市橋正光さんから指導を受け、予防接種前の過度な日焼けが免疫を低下させることなど、紫外線対策の重要性について知見を深めていった。啓蒙活動の一環として、世界保健機関(WHO)が発行する紫外線対策のガイドライン「SUN PROTECTION(サンプロテクション)」の翻訳に着手する。英語の専門用語に苦労しながらも、翻訳者と協力して日本語化し、広く多くの方に紫外線対策の意義を伝える活動を「子どもの紫外線対策協会」を中心に情報の発信をして展開した。

活動を進めるなかで、色素性乾皮症(XP)などの光線過敏症を抱える子どもたちの実態に直面することになる。過去にあった色素性乾皮症の患者さんのための防護服は、宇宙開発機関の技術を応用したものであったが、内部に保冷剤を複数枚入れる必要があり、高温多湿な日本の夏において長時間の屋外活動には適していなかった。
「全身を覆い、サングラスとマスク、手袋を着用する姿がいじめの対象になり、石を投げられるといった悲痛な現実がありました。その事実を知り、心が折れて落ち込む時期もありました」
紫外線を確実に遮断しつつ、一日中快適に着用でき、かつ日常的な衣服として違和感のない、むしろカッコイイ、と羨ましく思われるような機能性とデザインを併せ持つ防護服を開発することが、「エポカル」にとって解決すべき重要な課題となっていった。
理研インキュベーションプラザでの実証実験
既存製品の課題を解決するため、松成さんは埼玉県和光市にある理化学研究所の敷地内に設置された「理研インキュベーションプラザ」への入居を決断する。埼玉県、理化学研究所、和光市、中小機構が支援する同施設への入居には厳格な審査が設けられていたが、光線過敏症患者のための防護服開発という社会課題解決への姿勢が評価され、入居が承認された。約5年半にわたる入居期間中、松成さんは専門家とのネットワークを構築し、研究開発に没頭した。彼女は文系出身であったため、紫外線の測定機器の扱い方から理化学研究所の研究者に教えを請い、測定器の自作にも取り組んだ。
「自社製品に使用している酸化チタン練り込み糸のUVカット効果の高さを、科学的なデータとして証明したいと考えていました。消費者に理解しにくい複雑な計算式ではなく、明確な測定データとして効果を提示することにこだわりました」
他社製品で主流となっていた後加工によるUVカット処理ではなく、素材そのものが持つ遮蔽効果を実証するための実験手法の確立に注力していく。
複数のスタッフで生地を光に透かして確認するような地道な作業から始まり、徐々に科学的な検証へと移行していった。この施設での実証実験と専門家との協働作業が、次世代UVカット素材「EPOCHTE®」の基盤技術を構築する重要な転換点となった。
酸化チタン練り込み糸が実現する持続的な効果
新素材「EPOCHTEX®」の核心技術は、ポリエステル繊維の製造段階で酸化チタンを練り込んでいる点にある。酸化チタンは白い物質であり、元々は衣類の透け防止を目的として使用されていた素材だ。研究を進めるなかで、この酸化チタンが紫外線領域200から400ナノメートルの波長を吸収および乱反射し、UV-A波とUV-B波の両方に対して高い防御効果を発揮することが判明した。
「後加工によるコーティングとは異なり、糸の内部に練り込まれた酸化チタンは、洗濯を繰り返しても溶け出すことがありません。生地が物理的に破れるまで、紫外線遮蔽効果が持続します」

実際に、顧客の中には10年以上にわたって同じ製品を着用し続けている事例も報告されている。スポーツウエア基準の縫製技術を採用しているため、長期間の使用にも耐えうる耐久性を備えているのも特徴だ。
さらに、酸化チタンには光触媒効果が存在し、紫外線を浴びることで汗のニオイを分解する消臭機能も付加されている。この素材特性により、夏の環境下でも肌を保護し、長期間にわたって機能性を維持するウエアの量産が可能となった。
鹿の子生地がもたらす軽さと通気
紫外線遮蔽率を高めると生地の通気性や伸縮性が損なわれるという課題に対し、松成さんは福井県の繊維工場と協働して新たな生地構造の開発に取り組んだ。冷却ファンを使用せずに体温調整を行うため、汗の気化熱も利用できる通気性の高い鹿の子(ワッフル調)の編み組織を採用した。PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂とPET(ポリエチレンテレフタレート)という収縮率の異なる2種類のポリエステル繊維を組み合わせることで、ポリウレタンを使用せずに軽量性とストレッチ性を確保している。
「染色時の熱処理工程において、2つの素材の収縮具合の違いを制御することが極めて難しく、工場側と意見が衝突することもありました。量産化には数ヶ月の遅れが生じましたが、完成した生地は検査機関のテストで紫外線遮蔽率100%を記録しました」
繊維のくぼみで紫外線を乱反射させる構造が寄与し、高い遮蔽率を実現しながらも、従来のパーカーと比較して20%から30%の軽量化を達成することができた。
デザイン面でも工夫が施されており、フードの形状を調整して顔全体を覆えるようにし(実用新案取得)、袖を長くして手元まで保護する仕様を採用した。脇のラインを絞ることで、機能性と日常的な衣服としての美しいシルエットを両立させている。


世界の光線過敏症患者を支援するパリコレへの夢
「エポカル」の製品は、一般的な紫外線対策を求める消費者だけでなく、光線過敏症や全身性エリテマトーデスの患者にとって、外出を可能にする重要な生活必需品となっている。「『今まで何を着てもだめだったが、このウエアは効いている』と涙ながらに報告してくださる患者さんがいます。その声を聞き、UVケア製品を必要としている人々の切実さを改めて認識しました」
松成さんは過去にアメリカのシリコンバレーで事業のピッチを行った際、市場規模が狭すぎると指摘されたことがあったという。しかし、患者にとっては人生の質を左右する製品であるという信念を持ち、活動を継続している。

現在、イギリスのセント・トーマス病院での製品展示や、カナダの患者さんのモニター調査など、国際的な展開も進めている。今後の目標として、紫外線環境が過酷なモロッコの患者に防護服を直接届け、安全性を実証する活動を計画しているようだ。
「ファッションの最高峰であるパリ・コレクションの舞台で、色素性乾皮症の子どもたちが防護服を着て歩く機会をいつか作ってみたいと考えています。病気への理解を深め、いじめや差別をなくし、生きやすくするための世界的キャンペーンを行うことが大きな夢です」
一人の母親の課題解決から始まった取り組みは、科学的根拠に基づく技術開発を経て、世界中の人々の肌を保護する活動へと広がっている。
株式会社ピーカブーの「EPOCHTEX®」は、単なるアパレルブランドの素材の枠を超え、テクノロジーが人々の尊厳をいかに守り、支えることができるかという可能性を示している。その根底にあるのは、「大切な人を守りたい」という思いを、科学と技術によって体現し続ける姿勢である。






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