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「空気を、まとう服」ゴールドウイン テック・ラボが描く“1枚で温度を操る”未来のウエア
株式会社ゴールドウインの重要な研究開発施設である「GOLDWIN TECH LAB(ゴールドウイン テック・ラボ)」が、新たなテクノロジーを搭載した衣類を発表した。それが「積層ハイロフトガーメント」という温度調節機能を搭載したプルオーバーだ。
ダウンの代わりに空気の保温力を活用し、衣類の空気量を調整することで自在に温度調節ができるというもの。環境への配慮もさることながら、寒暖差の大きい様々なシーンにおいて、たったの1枚でまかなえるという代物だ。
今回、同社の商品企画部 村井絢子さん、開発本部 テック・ラボ部長の研究者である平山壮一さんと木村航太さんに取材をし、なぜ「空気」に注目したのか。そして、このテクノロジーによってもたらされる衣服の未来はどのようなものかを語ってもらった。
PROFILE
平山 壮一(ひらやま そういち)
開発本部 テック・ラボ 部長
PROFILE
木村 航太(きむら こうた)
開発本部 テック・ラボ 研究開発グループ リーダー
PROFILE
村井 絢子(むらい あやこ)
ゴールドウイン事業本部 パフォーマンス企画グループ エキスパート
1枚で体温調節ができる万能ウエア
ゴールドウインの本社がある富山県に、ゴールドウイン テック・ラボはある。そこでは日々、先進的な技術や品質保持力を高めた素材・製品が開発されている。これまでもアスリート向けのウエアを開発するなど、日本を代表する選手たちの活躍を支えてきた。そのラボが新たな技術開発のカギとして「空気」に注目した。その背景には、登山で見られる衣類のレイヤリング(重ね着)があった。
「登山では天候の変化が激しく、風の有無や日の当たり方、標高によって体感温度は大きく変わってきます。そのため、登山者はインナー、中綿ジャケット、レインジャケット、ダウンジャケットなどを重ね着して、体温調節をしなければなりません。そこで、体感温度に応じて、1枚で調整できるものがないかということで、開発がスタートしました」(平山)
「空気」に注目、流動性が問題に

空気に注目した理由は、ダウンと比べて簡単に容積を変化させることができるからだった。同ラボは、ダウンの代わりに空気を入れた試作ウエアの効果を検証することから着手した。すると、興味深いデータが得られたという。
「試作ウエアには、期待したような保温効果がありませんでした。本当に空気だけではダウンのような暖かさを実現できないのかを追究するために、本格的に実験を展開していきました」(木村)
効果が得られない原因を突き止めるため、同ラボは基礎検証に時間を費やすことになる。ここで同ラボが行ってきた検証のいくつかを見ていこう。ゴールドウインの技術力の高さに驚くはずだ。
最初にCFDという熱流体シミュレーションが行われた。これにより衣服内での空気の動きが可視化でき、その動きによる放熱具合までわかるというものだ。
「空気層を厚くすると暖かくなるのかを調べました。生地と生地の間にスペーサをかませ空気層をつくり、その厚みの変化に伴う保温性の変化を検証しました。すると、確かに空気層が厚くなれば保温性は上がるのですが、それも十数mmまでで、それ以降は変化が見られないことを突き止めました」(木村)
空気の層があっても、その内部で空気が動き回ってしまうために熱が逃げていることが判明した。その後、空気層を何層にも分けるよう仕切りを設けて検証を行うと、見事に空気の動きが制限され、保温性が向上したという。
「積層構造の空気」と中綿が同程度の保温性
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さまざまな実験とシミュレーションを繰り返し、同ラボはその結果を衣服に適応させるために、積層構造の形状モデルを考案した。生地をドット状の接着面で重ねていくことで、上述した空気層の積層を確保するものだ。
「この形状モデルが本当に保温効果があるのかを確かめるために、ヒートロスの検証を行いました。その結果、空気を積層させた形状モデルと一般的な中綿が同等の保温性能であることが証明されました」(木村)
これらの検証によって中綿と同等の保温性が確保できることが分かっても、同ラボの実験は終わらなかった。
「衣服内部の構造がシミュレーションモデルと一致しているのかを確認するために試作ウエアのCTスキャンを撮ったり、試作ウエアが1着で保温性を大きく調整できるように試作と検証を繰り返しました」(木村)
そうしてこのテクノロジーを有したトレイルランニングシーンでの使用を想定した「積層ハイロフトガーメント」の開発に着手することになる。
「積層ハイロフトガーメント」の実力

完璧なデータに裏付けされた「積層ハイロフトガーメント」には、アウトドアシーンでの装備品を変えうるポテンシャルがあると考え、そのプロトタイプを2025年8月フランスはシャモニーにて発表した。高い保温性が求められるボディ部は3層にし、わきの下は動きを妨げぬよう1層構造にするなど、ある程度のスピードを持って進み続ける状況を想定した構造になっている。
「長距離のトレイルレースでは、長袖のカットソーや保温着を携行することが義務化されていることがあります。その数を減らせれば、より身軽な状態で走ることができますし、万が一、低温下の状況にあっても、自分の命を守る保温性をより高いレベルで維持することができるのではと考えました。まだ実際にトレイルレースでのテスト回数は重ねられていませんが、将来的に必携品の考え方を変えることができる可能性を秘めた開発だと思い取り組んでいます。」(村井)
その言葉どおり、効果の高さは折り紙付きだ。マネキンに着用させてサーモグラフィーを見ると、空気のかさ高があがるにつれて保温性が高まる様子が確認できた。
「空気量を変化させることで、ウインドブレーカーから、保温性の高いダウンジャケットまで保温性を変化させることが可能であることが証明されました」(村井)
技術開発がもたらす未来
新たな技術が競技のルールを変え、さらには人々の衣類への考え方も変えてしまうような可能性をもつ同ラボの「積層ハイロフトガーメント」。競技以外にも、この技術の完成によってどのような未来が来ると感じているのか最後に聞いてみた。「アウトドアフィールドにおけるギア開発では『より少ない資源で、より多くのことを成し遂げる』という考えを常に主軸に置いています。そのようにして生み出された製品が、日々の生活にも利便性や快適性をもたらすものになればと願っています。」(村井)
「この商品の特徴は、保温機能の調整幅が広いところです。日常生活からトレイルまで、どのような環境下でも使える製品が、どこまで広まっていくのか楽しみです。今後も最新テクノロジーのインパクトを見せていきたいですね」(平山)
ゴールドウイン テック・ラボが生み出したこのプロトタイプは、トレイルランニングのような専門的な競技だけでなく、より広い領域での活用が見込まれる。特にこの技術を用いた日常着を早く手にしたいところだが、現在はプロトタイプのみ。26年の発売に向けて鋭意開発中ということなので、公式からの発表が今から楽しみで仕方ない。














