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ルカ・ハマースのデザイン哲学、SFとクリーチャーが織りなす機能的な異世界

2025.08.26
オランダ出身のファッションデザイナー、ルカ・ハマースさん。SFやクリーチャーから着想を得た彼の服は、機能性と異世界的な造形を併せ持つ。
本稿では、彼の創造の源泉と、妥協なきデザイン哲学、そして作品に込められた思想に、インタビューを通して迫る。

PROFILE

ルカ・ハマース(Luca Hamers)

オランダ生まれ、ロンドンを拠点とするファッションデザイナー。セントラル・セント・マーチンズ卒業。未来学者であった祖父やSF、クリーチャーから影響を受け、アバンギャルドで異世界的なデザインを探求。想像力豊かな美学と、軍用規格の生地やマグネットジッパーなどを用いた技術的な精密さを融合させる。デビューコレクション以来、実用性と彫刻的なシルエットを両立させた作品は、世界的に高い評価を得ている。

Instagram

プロフィール写真:ワールドのポップアップに登場したルカ

服から始めないデザイン:SFとクリーチャーが織りなす独創性の源泉

ハマースさんの作品に共通する「クリーチャー」や異世界的な要素は、どのようにデザインへ反映されているのでしょうか?
「クリーチャー」というテーマは、子どもの頃にオタク文化へ没頭した経験から来ています。幼い頃は一人で過ごすことが多く、漫画、アニメ、ゲームの世界にのめり込んでいました。
その後、ファッション分野において世界最高峰の教育機関である、ロンドンの「セントラル・セント・マーチンズ」で学んでいたとき、ある先生から「服を見るな。誰にもできない、自分だけの視点をデザインに持ち込め」と言われ、1ヶ月間服を作ることを禁止されたのです。
その間は、ただ絵を描き、自分の世界観を探求するよう指導され、そこから「クリーチャーによって世界観を構築する」というオリジナルの手法が生まれました。今でもスケッチブックにはクリーチャーばかり描いていて、その線やフォルムが服のシルエットに反映され、他にはない立体的な造形が生まれています。服からデザインをスタートさせないからこそ、独自のアプローチを持てていると思います。
ハマースさんのスケッチ
また、オランダ政府で未来を予測する学者として働いていた祖父の存在も大きいです。幼い頃からSF映画をたくさん見せてもらい、その影響で「未来的だけどコスチュームには見えない服」を作りたいという想いが強くなりました。SF的だけど現実で着られる、そんなバランスを追求しています。
Shadow On The Road

唯一無二のビジョン:精度と創造的純粋性の追求

自身のスタジオを設立した理由と、卒業コレクション「Shadow On The Road」がその決断に与えた影響を教えてください。
卒業コレクション「Shadow On The Road」の制作時、先生たちは私にいろいろなアドバイスをしてくれましたが、私は自分の信念を貫くことに決めました。たとえば、多様な色を使うように言われても、「生地の配送が間に合わなかった」と言い訳をして、すべて黒で統一したのです。
たとえ10%でも他人の影響を受けて方向性を変えてしまったら、作品が評価されたとしても、本当に自分の実力なのかが分からなくなります。自分のやりたいことを100%そのまま出したときに、人々がどう受け取るのかを知りたかったのです。
結果、卒業コレクションは大きな反響を得て、それが自分の会社を立ち上げるきっかけになりました。オランダの新聞や多くの雑誌に取り上げていただき、「この勢いに乗って自分の道を進むべきか、それともこの注目度を利用して就職すべきか?」と考えました。
結果として、就職は後からでもできますが、自分が表現したいことに集中して生きるほうが刺激的だと思ったのです。今振り返ると、それは最高の決断でした。自分の会社を経営すること以上に、自信や成功、そして幸福感を与えてくれたものはないと思います。
Manifestation 002 campaign. Photo: Tom Silvester
独立前には、ダニエル・W・フレッチャー、リアム・ホッジス、アイトール・スロープといった著名なデザイナーのもとで経験を積んだそうですね。
最初の2つのブランドでの経験は、ファッション業界に足を踏み入れ、その仕組みを学ぶためのものでした。もちろんデザイナーたちを尊敬してはいましたが、私のスタイルは彼らとは大きく異なるので、どこか「自分は親しい部外者だ」といった感覚を常に持っていました。
一方、アイトール・スロープは16歳の頃から憧れていた人物で、「テクニカルファッション」というジャンルを確立した先駆者です。彼は世界でもっとも緻密なデザイナーの一人と言われるほどで、すべてが0.5ミリ単位で測られます。
その厳しくも素晴らしい環境で、非常に高いクオリティ基準を自分に課すことを学びました。私たちは先人たちが道を切り拓いてくれたおかげでここにいる、「すべての人は先人の肩の上に立っている」ということを強く意識させられた経験でもあります。
デザインに対する姿勢について、特にどの工程にもっともこだわりがありますか?
デザインはすべて「鉛筆」から始まります。これが一番大切なことです。私は「描くこと」がもっとも重要だと思っています。デザインというのは自分の内面から出てくるべきもので、参考資料からのインプットだけで作っていると深みが出ないのです。
私は放っておいても何かしら描き出しますし、基本的に人の意見はあまり必要としません。チームメンバーが何か素晴らしいものをデザインしたとしたら、「それは君が作りなよ」と伝えます。私が作るものは、すべて私の手から始まらなければならないのです。
ハマースさんのスケッチ

機能性は背骨である:最高品質の素材と技術が融合するプロダクト

あなたの服にはマグネットジッパーやモジュールデザインなど、革新的な素材や機能が見られます。素材選びの基準と、美しさと実用性のバランスについて教えてください。
学生時代から形を極めたいと思っていたので、色についてはすべて黒で作っていました。派手な生地で興味を引くのではなく、静かな素材で魅せるほうがずっと難しい。服を彫刻のように捉えることが大切だと考えています。
素材に関しては、「服がクリーチャーなら、機能性は背骨」です。背骨がなければ全体は成り立たない。だから、低品質な素材は使いません。マグネットジッパーを使うのはSFからの影響もありますが、未来志向の部品を取り入れることで、他では見られないレベルのこだわりを示すためでもあります。
XO-002-[Dustman] field jacket.
一部のパーツはスイス製、またはイギリス軍と同じサプライヤーから取り寄せています。世界中の最高のものを一つのプロダクトに凝縮させることで、ユニークな価値が生まれるのです。
たとえば初期の2シーズンでは、第2次世界大戦時にイギリス軍の特殊部隊が使用していた防水素材「Ventile(ヴェンタイル)」を採用しました。
軍が使う素材ということは、それだけ高品質で耐久性があるということ。それを私たちは機能性として人々に提示しているのです。
最近は手仕事的な魅力も見直しています。1859年創業の日本の織物工場と仕事をしたとき、自分が生まれる前から存在し、自分がこの世を去った後も存在し続けるであろう素材の詩的な美しさに心を動かされました。テクニカル素材だけでなく、そうした伝統素材とのハイブリッドを探求しています。
XO-001-[Recluse] Shell from Manifestation 001 Photo: Paul Bellond

アイデンティティをまとうということ:着用者と共鳴し拡張する世界

マスクやヴェールがあなたの作品には頻出しますが、それにはどんな意味が込められているのでしょうか?
知人のマスク製作アーティストが言った「マスクは、人の手で作りうる最小のプライベートスペースだ」という言葉が、私の中に強く残っています。また、アキコ・ブッシュの著書『How to Disappear(いかにして姿を消すか)』にも影響を受けました。
アイデンティティを隠すことで、服との関係をもっと内省的にできるのでは、と考えました。誰にも見られない状態で着る服は、本当に自分がそれを好きかどうかだけが問われます。他人の目を完全に排除したときに見える本音、それが私がマスクやヴェールに込めているテーマです。
XN-001-[Monolith]
あなたの服を着る人には、どのような感覚になってほしいですか?
私自身、常に自分のデザインした服を着ていますが、「自分が何者であるか」を超えた大きな何かを身にまとう感覚があります。ある意味で異世界的な体験ですね。
一方で、購入した人が自分の意図とはまったく違うスタイルと合わせて着てくれるのを見るのもとても面白いです。デザイナーとして、自分の作ったものがどう着られるかを完全にコントロールすることはできないし、するべきでもないと思っています。
最後に、ブランドの将来像について教えてください。
現在、世界の有名ショップにも展開していますが、引き続きコラボ相手は「自分たちの世界観を理解してくれる人たち」に限り、慎重に選んでいきます。
また、今後はお客様とより直接的に関わっていきたいと考えており、新しいウェブサイトを構築中です。素材の詳細や背景について詳細を提供できる予定です。
さらに、他ブランドやアーティストのクリエイティブディレクションやプロジェクトにも、積極的に挑戦していきたいですね。
内なる世界観を一切の妥協なく形にするルカ・ハマースさん。その創造は、機能性と詩的な美しさを融合させ、新たな領域へと向かう。彼の公式サイトや今後のプロジェクトで、拡張し続けるその唯一無二の世界観を体感してほしい。

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