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メンズドレス系が好きな人たちのオフ会「背広散歩」:主催者が込めた思い

2024.12.08
11月2日、浅草で「背広散歩」というユニークなイベントが開催された。スーツを身にまとい街を歩くこのイベントは、スーツという言葉から想像するような格式高い雰囲気とは一線を画している。参加する人たちは皆、自慢の着こなしを披露しつつ、ファッション談義に花を咲かせながら、楽しいひとときを過ごしていた。
今回、主催者のひとりである安武俊宏さんに取材を行い、ご自身がスーツに惹かれるようになった背景を掘り下げつつ、「背広散歩」を開催するに至った経緯やその目的についてお聞きした。そこにはファッションを楽しみ、業界を盛り上げていきたいという熱い思いが隠されていた。

PROFILE

安武 俊宏(やすたけ としひろ)

アパレル勤務
福岡生まれ札幌育ち。文化服装学院卒業後、2005年にアパレル企業へ入社。販売員→プレス→販促分野を統括するプレスチーフを経て、3月からオウンドメディアの責任者として指揮を執る。メンズドレスをベースとしながらも自由度のあるミックススタイルは世界から注目され、海外書籍に数ページにわたって特集されたことも。3度の飯よりおしゃれな洋服や雑貨、インテリアが大好き。嫌いな食べ物は“エビ”。Instagram

スーツに魅了され、メンズドレスの世界へ

まずは、安武さんのスーツとの出合いを教えてください。どういった経緯でスーツに興味を持たれたのですか。
文化服装学院の同級生の影響です。1年生にしては珍しく靴磨きが趣味という2つ年上の同級生がいまして、彼と仲良くなったことでドレス系の雑誌を読み始めました。
革靴とベルトの色を合わせなくてはダメとか、このシャツにはこのネクタイを合わせて、結び方はこれでといった細かい作法が書かれていましたね。それを読んだときに、自分の感覚だけではなく作法も覚えれば、おしゃれに磨きがかかるんじゃないかと思い、のめり込んでいきました。
仕事でスーツに関わることになって、見方は変わりましたか。
考え方は変わらなかったですが、センスは先輩方にしごかれましたね。サイズの取り方や袖丈、パンツ丈へのこだわりが尋常じゃなかったんです。
 
たとえば、先輩の裾上げをすると「足の左右差があるから、右だけ0.3cm長くして」といった提案をしてきます。その僅かな差でクッションの出方が変わるんですね。
こだわりが強くなるほど、その人のスタイルはより洗練されていくのですね。
言葉では説明できないけれど、あの人おしゃれだよねと感じる場合、その方は確実にこだわりを持ったスタイルの人だと思います。

おしゃれの一環として、スーツを楽しむ場

「背広散歩」とは、どのようなイベントですか。
昔からおしゃれをして遊びに行く場所を作りたいよねっていうのが、メンズドレス系のメディアやショップは口を揃えて言っていました。何かいいアイディアはないかと考えていたなかで、2018年に台湾のスーツウォーク[1]に参加しました。
 
みんながスーツを着て集まって楽しんでいる姿に圧倒されてしまい、それが脳裏に焼き付いていました。それから数年後に同業他社の方々が集まる飲み会で「これを日本でやろうよ」と仲間たちと団結したのをいまでも覚えています。
ですから、「背広散歩」はメンズドレス系が好きな人たちのオフ会なんです。自由にファッションを語れる場を作りたかったし、自分たちが楽しむ以上に、日本のメンズドレス業界を盛り上げたいという思いがありました。
スーツを着ていく場は、どうしても堅苦しいイメージがありますね。
雑誌やブランドさんが開催するイベントは数多くありますが、コマーシャル的な側面もあって、純粋には楽しめないんですよね。「いつかはうちのブランドの服を買ってね」みたいな意図が見えてしまうと、イベントへの参加を躊躇してしまいます。
また、イベントでなくともスーツを着ていく場所というと、おしゃれなバーで葉巻を吸うといったちょっと現実離れしたイメージを持たれる方が多いと思います。そういうのも払拭したかったですね。
散歩が終われば、そのまま街の居酒屋で打ち上げを行う
他のイベントと比較して、「背広散歩」の魅力はどこにありますか。
皆さんそれぞれ趣味をお持ちですよね。野球が好きだったり、登山が好きだったり。それと同じで、僕たちはメンズドレスが好きなんです。
 
ところが他の趣味と違って、学校や会社の中でメンズドレス好きを探すのは、結構大変なんですね。でも、ここにはメンズドレスをはじめファッションが好きな人たちが集まりますから、横のつながりを作るにはもってこいの場所だと思います。
今年(2024年)で4回目の開催ですが、参加者や雰囲気の変化はどのように感じていますか。
これまで東京と大阪で開催してきましたが、運営側が情報を発信して集まってもらったという印象です。ですが、今回の浅草での開催は、これまでとはまったく違う様相でした。
 
過去に参加した人たちがすでに仲良くなっていて、お互いに誘い合って集まってきてくれたんですね。
いままで縁もゆかりもなかった人たちですよ?この姿を見て、今後は僕らが運営をしなくても、自走していくコミュニティに成長したと感じました。

背広散歩の行く末

横のつながりが強くなっていくことに、どのような期待感をお持ちですか。
これをきっかけに、イベントがなくてもオフ会を開いてほしいですし、もっと洋服の話をしてほしいなと思います。
ちょっとした会話のきっかけから、買い物に行きたくなるでしょうし、来年の「背広散歩」にむけてネクタイを新調しようかなとか、靴を磨いておこうかなといったアクションが生まれるとうれしいですね。
今後も定期的に「背広散歩」は開催していくので、運営側もここまで作り上げてきたイメージを大切にしながら、より多くの人に気軽に参加してほしいと思っています。
参加者の皆さんは、本当におしゃれに写っていますよね。
そこは僕らも非常に意識しています。敷居の高くないコミュニティ性と、よりおしゃれなイベントにしていこうとする雰囲気作りですね。このイベントでは、必ず一人ひとりのスナップ写真を一眼レフで撮影しています。この体験は特別なものになるんですね。
僕自身、イタリアで開催される国際展示会「ピッティ・ウオモ」で、海外のフォトグラファーさんに写真を撮られて、何度かサイトに掲載されたことがあります。それを見ると、普段より断然かっこよく見えるんです。その感覚を皆さんにも味わってもらいたいですし、写真を撮られると思うと、1ヶ月くらい前からコーディネートを考えるようになって、よりファッションを楽しめる時間が増えるんですよ。
「背広散歩」の参加者には、一人ひとりにスナップ写真を渡している
「背広散歩」で実施したいイベントはありますか。
これまで東京と大阪で開催してきましたが、日本全体を盛り上げるためにも、各地域で「背広散歩」を開催したいですね。特に、今回は台湾やバンコクからも参加してくれた方もいて、アジア全体も巻き込んでいけると最高ですね。
実は、いまアジアではメンズドレスが盛り上がっていて、若い人たちが楽しむ姿も多く、皆さんおしゃれなんですよ。この動きを欧米にも伝えていきたいです。
いまでは海外の人にも認知されるイベントにまで成長していると。
それで言うと、参加者の方との忘れられないエピソードがあります。
 
日本在住の韓国出身の方がメンズドレスの世界が好きということで、一人で「背広散歩」に参加してくれたことがあります。その後、彼が日本語でインスタグラムに感想を投稿してくれたんですね。
 
「行くかどうか迷ってたけど、参加してよかった」って。しかも、「これを機にメンズドレスの業界で働きたくなった」とまで言ってくれていました。これを読んだときに、ちょっと感動しちゃって。これも運命だと思うんですけど、彼はいま僕と同じ会社で働いているんですよ。
 
「背広散歩」が他人の人生を変えるほどの影響力があるなんて思わなかったですからね。これからも続けていこうと決心しました。
今後の背広散歩の展望を教えてください。
やりたいことは多いのですが、現状は手弁当でやっている状態なので、ゆくゆくは何かしらでマネタイズしたいと思っています。
運営側はタダでもいいのですが、撮影してくれるカメラマンも気持ちだけで参加してもらっているので、みんなが気持ちよく参加できる仕組みを整えていきたいと思っています。ですが、お伝えしているように、何か魂胆が透けて見えることだけは避けたいので、難しいところです。
また、この記事を読んで興味を持った方には、ぜひ次回の「背広散歩」に足を運んでほしいと思っています。どのようなスタイルでも構いません。アメトラっぽく、ベースボールキャップをかぶって、ニットタイを締めている人もいれば、ゴリゴリのクラシックではなく、ゆったりとしたスーツスタイルの方もいますし、モードっぽい服装の方もいます。
いろいろなジャンルの人がもっと増えればいいと思っていますし、ルールに縛られない着方をしている人が増えると、より楽しくなるだろうなと思っています。

《註》
[1]スーツやジャケットなどを装って台北の街を歩くイベント

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