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anelloのシーンに特化したライン作りから見るBtoC戦略への事業転換

2026.06.05
口金リュックで知られるバッグブランド「anello(アネロ)」が、創業20年を機に大規模なリブランディングへと踏み切った。これまで事業の根幹を支えてきたBtoB中心のビジネスモデルから、BtoCへと大きく舵を切ったのだ。それに伴い、利用シーンに合わせた「SCENE ASSIST(シーン アシスト)」という新たなコンセプトのもと、商品展開を開始している。
今回、株式会社キャロットカンパニーの角谷雨さんに取材を行い、ブランド再構築の背景と新シリーズの開発を伺った。

PROFILE

角谷 雨(すみやゆい)

キャロットカンパニー  マーケティング・クリエイティブ統括
キャロットカンパニーではanello、LegatoLargo、untule、fulcroなど複数ブランドのブランディング戦略を統括し、EC・リアル双方の成長を牽引。マーケットに基づく意思決定とクリエイティブディレクションを両輪で回し、“売れる”と“そのブランドらしい”を両立させるブランディングを志向。会社全体の視点から各ブランドの価値再構築に取り組む。2024年から現職。

卸売りだからこその課題

anelloは、そのアイコニックな口金リュックで広く知られ、国内のみならず海外にも多くの利用者を獲得してきた。しかし、その成長を支えていたのは、売上の90%以上を占めるBtoBのビジネスモデルだった。狙って売上を取っていくマーケティングやプロモーションをせず、直営店ではない卸先の店舗などの売り場を国内外幅広く確保することで顧客との接点を作ってきた。
だが角谷さんは、この構造が売れれば売れるほどブランドにとっての課題を生んだと見ている。
「卸売りが中心だと、売り場でのVMDを含む世界観や見せ方、販売方法を我々がコントロールできません。それが結果として、ブランドイメージの無法地帯化を招き、徐々にブランドとしての好感度や価値を低下させているという危機感がありました」
この感覚を明確にしたのが、2024年に行った大規模なブランド調査だった。調査結果では、anelloの直営店で商品を見た顧客と卸先で商品を見た顧客との間で、購買意欲に大きな差が生じていることが判明した。ネット販売でも同じことであった。
SNSでもネガティブな言及が多く、社内でも周知していたこの事実が、anelloを新たな変革へと突き動かすことになる。
anelloの代名詞ともいえる口金リュック「CROSS BOTTLE」(右)も、より洗練されたデザインに

マーケットイン思考の導入

調査結果を受け、anelloが下した最大の決断は、BtoBからBtoCへとビジネスモデルの転換を図るというものだった。これは単なる販売チャネルの変更ではなく、商品開発の考え方も作り手主導のプロダクトインから、顧客の需要を起点とするマーケットインへと切り替えるチャンスとなった。
これまでは幅広い年齢層に利用されていたものの、ブランド側から特定のターゲットに向けた積極的な発信は行っていなかった。新たな戦略では、ファッションに興味を持つ20代や30代の若い世代を初期のターゲットに設定し、そこから徐々に無関心層へと認知を広げていくアプローチを採用している。
注目したいのは、このリブランディングにおけるポジショニングの再定義だろう。近年、大手企業が低価格で高品質なバッグを展開し、同価格帯における新たな競合として台頭してきた。しかしanelloは、価格競争に陥ることも、急激にハイブランド化することも目指していない。商品の価格引き上げも最小限にとどめ、既存の顧客層も引き続き購入できる手に取りやすい価格帯を維持している。
その上で、顧客の具体的な利用シーンに寄り添うというコンセプトを掲げた。子育てやビジネス、トラベルといった特定の場面で求められる機能を見直し、使う人の行動を一歩先へアシストすることで、同価格帯のなかで独自の価値を提供するanelloの強みがより具体化されるかたちとなった。

利用シーンをアシストする5つの新ラインが誕生

人々の生活に寄り添う「SCENE ASSIST」の考え
マーケットイン思考を具現化するコンセプトとして掲げられたのが「SCENE ASSIST」である。これは、利用者のさまざまなシーンを見つめ直し、それぞれの場面で「こういう機能があったらうれしい」というニーズに応えることで、利用者の日常をアシストするという考え方だ。
そこで今回、anelloはブランド内に新たに5つのラインを設定した。従来の口金リュックなど定番商品を集約した「NATIVE」、日常使いの「FIT」、ビジネスや通学用の「CONVERT」、子育て向けの「mate」、そしてトラベルに特化した「EXPAND」である。
コンセプトを明確に打ち出すことによって、利用者のシーンに寄り添うアイテムに
特筆すべきは、ブランドの顔だった口金リュックを展開するラインをあえて絞り、口金を出さないラインを設けるという大胆な決断を下した点だ。
これにより、各ラインが独自の世界観を持ち、まるで別ブランドのような差別化が図られている。この5つのカテゴリーは、人々が目的を持ってバッグを利用するシーンを網羅しており、これ以外の用途はいわゆるラグジュアリーブランドの領域になると角谷さんは分析する。

旅の多様なニーズに応えるEXPANDシリーズの設計

なかでもトラベルシーンを想定したEXPANDシリーズの開発は、価格と機能のバランスの調整が求められたという。旅に適したバッグには撥水性や耐久性、そして軽量性が必要になる。
EXPANDシリーズは旅を意識した軽量設計かつ耐水性にも特化
しかし、手頃な価格帯を維持するというブランドの強みを守るためには、特定の機能に特化した高価な機能性素材を無制限に使用することはできない。限られたコストのなかで、いかにして必要な機能を担保するかが大きな課題となった。
特に開発の際に注力したのが、バッグ自体の重さだった。
「1万円を下回る価格帯のバッグですと、バッグの重さはより顧客が購入を見送る大きな要因となります。機能が良くても店頭で手に取った瞬間に少しでも重さが気になってしまうと、候補から外れてしまうんです。日常のなかで無理なく使えると感じてもらうためには、なによりも軽量化は必要不可欠でした」
そうして試行錯誤の末に誕生したEXPANDシリーズは、トラベルという大きな枠組みのなかでも、さらに細分化された顧客の具体的なニーズに応える複数のモデルを展開した。
撥水性を備えジェンダーレスなデザインを採用した「SEEK」、トラベルとビジネスの両面で便利な機能を搭載した「EXPAND 5」、シリーズ最軽量で日常使いにもおすすめの「GUIDE」、そしてキャリーケースを持たない1泊から2泊の小旅行を想定した「JASPER」である。
今回のリブランディングで誕生した「JASPER」は、旅行バッグの新たなスタンダードへ
ジェンダーレスを掲げるanelloでは、単一のフリーサイズで展開して在庫管理を簡略化するのではなく、S、M、Lといった細やかなサイズ展開を用意している。さらに、ショルダー紐の長さやハンドルの大きさなど、体格の異なる顧客が快適に使用できるよう調節パーツを組み込むことで、性別を問わずフィットする設計を実現した。
また、他のラインとの差別化も視覚的に行われている。子育て向けの「MATE」ラインがニュアンスカラーを用いて柔らかい雰囲気を演出しているのに対し、「EXPAND」シリーズはエッジの効いたカラーリングや特徴的なパーツを使用している。これにより、同じ価格帯の商品のなかでも、目的や好みに応じて選び分けられる商品群として整理された。
ほどよいハリ感のある柔らかな印象を与えるmateの「POMY」は、トレンド感あるバイカラーを展開
「JASPER」にはポップなカラーも用意されており、ファッションアイテムとしての存在感がアップ

グローバル市場と直営店展開が描く新たな未来

anelloの戦略は国内にとどまらない。現在、大阪に2店舗の直営店を構える同ブランドは、海外市場でも独自の地位を築いている。特にタイをはじめとする東南アジアでは、一時期100店舗以上を展開するほどの人気を博したという。
海外での販売価格は日本よりも相場が高く、現地では少し高級な機能性バッグとして認知されている。求められる機能も地域によって異なり、海外のトラベルシーンではセキュリティポケットの存在が購入の決定打となることが多い。
また、東南アジアの気候を反映した耐水性や防水性への高い需要、明るいカラーリングを好む傾向など、現地の特性に合わせた展開が行われている。
国内外問わず、さまざまなシーンで活躍できるデザインやカラーを設定
現在国内の直営店においても、来店客の70%以上を海外からの旅行者が占めている。インバウンド需要の高さは、ブランドのグローバルな魅力を裏付けるものだ。今後は東京などインバウンドに強い立地への直営店拡大も視野に入れている。
設立から20年を経て、anelloは卸先任せの販売手法から、自らの手でブランド価値をコントロールし、直接顧客に届ける体制へと歩みを進めている。バッグそのものを売るのではなく、旅行や移動といった利用シーン全体を支えるブランドへと変化しつつある。anelloは今、その在り方を再定義しようとしている。

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