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THE NORTH FACEの名作ダウン「ヌプシ ジャケット」が発揮する驚異のパフォーマンス

2024.12.19
ダウンジャケットと聞けば、「ヌプシ ジャケット(NUPTSE JACKET)」を思い浮かべる人は少なくないはずだ。
1966年に、カリフォルニアで誕生したザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)が1992年に発売したこのモデルは、もともとはエクスペディション(登山や探検のための遠征)を目的として開発されたアウトドア用の防寒ギアだった。
その後は山のプロフェッショナルたちから高い支持率を獲得しただけでなく、音楽やファッションと結びつくことで、ストリートでもブレイクを果たした。
今回はアウトドアとファッション、それぞれの歴史に足跡を残すヌプシ ジャケットの魅力を探ろう。

PROFILE

佐々木 継太(ささき けいた)

ザ・ノース・フェイス デザイナー
アパレル企業を経て、2016年に株式会社ゴールドウインに入社。現在はライフスタイルカテゴリーのデザインチームを指揮する。

デスゾーンを想定したエクスペディション用ダウンがルーツ

お話をうかがったのは、同ブランドのデザイナーを務める佐々木継太さん。
「ヌプシ ジャケットの誕生は、’80年代に始まったエクスペディションシステムの開発と密接な関わりがあります。同シリーズは過酷な気象条件に対応するべく、シェルやインサレーション、アクセサリーなどをそれぞれ連結させて、相互の機能性を高め合うレイヤリングシステムでした。ザ・ノース・フェイスはこのシステムの開発で培ったノウハウを駆使して、ヌプシ ジャケットを完成させました」
ヌプシ ジャケットはデスゾーン(人間の生存が難しいほど酸素濃度が低い標高8,000m以上の高所)への即応力を実装したマウンテニアリング用のウエアとして、1992年に発売された。
モデル名はエベレストの南西に連なる山の名から。NUPTSE(ヌプツェ)の「NUP(ヌプ)」はチベット語で「西」、「TSE(ツェ)」は「峰」を意味する。

’90年代の音楽シーンを彩ったヒップホップクルーたちのアイコンに

ヌプシ ジャケットの存在が広く世に知られるようになったきっかけは、’90年代の音楽シーンにあった。
「メジャーチャートで人気を博したヒップホップクルーのメンバーたちが、こぞって自身のスタイルに取り入れたんです。
愛用された理由は、マンハッタンやブルックリンの厳冬期の寒さから身を守ることはもちろん、彼らが好んで着ていたインナーのスウェットパーカにヌプシ ジャケットの立ち襟が干渉しなかったからともいわれています」
2000年代に入ると日本のストリートでもブームに。
「当時、カリスマ人気を誇ったドメスティックブランド、SWAGGER(スワッガー)の恵比寿系が引き金となり、その人気は裏原系にも波及しました。さまざまなファッション誌に取り上げられ、定番ダウンとして広く認知されました」
2000年代初頭に発売されたヌプシのベスト
2006年にはヌプシ ジャケットのフットウエアバージョンというべきヌプシ ブーティが登場。厳冬期に行うキャンプで、テント内で履くダウンソックスにラバーソールをつけたブーツは世界的なヒット作となった。
「ヌプシ ブーティ ショート ポーラテック」23,980円(税込)
2011年には、Supremeとの最初のコラボレーションモデルが登場。当時の名だたるセレブリティラッパーがこのモデルを着用し、センセーションを巻き起こした。
デビューから30周年を迎えた2022年には、テキスタイルの染色工程を省くことで環境負荷に配慮したアニバーサリーモデルが登場。さらにここ数年、’90年代ファッションのリバイバルも手伝って、人気が再燃している。

ブランドのデザイン哲学を体現した機能美

なぜ、ヌプシ ジャケットはファッションアイコンとなり得たのか? 
「その理由は誕生から現在までほとんど変わっていない完成度の高いデザインに尽きると思います。ザ・ノース・フェイスのデザイン哲学を表す言葉に、思想家やデザイナー、建築家などの肩書を持つバックミンスター・フラーの唱えた、『DO MORE WITH LESS』というものがあります。これは最小で最大を成すという意味で、ブランドとしても大事にしている言葉です。
つまり、必要最小限の素材や物質で最大限のパフォーマンスや効果を生み出す、という意味。ザ・ノース・フェイスのヌプシ ジャケットは、このデザイン哲学をもっとも体現したプロダクトの一つです」
「ヌプシ ジャケット」 39,050円(税込)
佐々木さんの言葉通り、デザインには無駄がない。
「たとえば、肩と身頃のカラーが切り替えられたデザイン。バックパックのショルダーハーネスが当たる肩には摩耗に強いタフタナイロンを用い、身頃にはっ水加工を施したリップストップナイロンを採用しています。素材自体も切り替えることで機能性を高めています」
立ち襟もこのモデルの特徴のひとつ。
「発売当時のダウンジャケットは、羽毛が内蔵された大型のフードがついたものが主流で、こうした立ち襟は珍しいものでした。首まわりがすっきりして見えるこの襟型は、ファッション的に着こなしに取り入れやすく、スタイリングの幅を広げるというメリットを生み出します」
発売当時から、フードを内部に収納できるビルトインフードの仕様になっている
比較的丈の短いシルエットは、出自と関わりがあるという。
「エクスペディションシステムの開発プロダクト群の一つとして作られているので、レイヤリング前提のシルエットとして考えられています。現行の日本企画ではジップ・イン・ジップ仕様にはなっていませんが、独特の丸みを帯びたシルエットが、本来のインナーとしての使い方よりもアウターとして着用されるお客様の支持を得てきたと考えています」
「小さく畳んで内ポケットに収納できるポケッタブル仕様になっているのも特徴です。また、ひっくり返すと肩部分の裏側に2本ステッチが入っています。これは表面上見えない裏側に小さなダウン部屋を追加している証拠なんです。それによりバックパックの負荷などで、肩部分の羽毛が偏り、膨らみが少なくなってしまうのを防ぐための工夫です。目に見えないところに気を配る、ものづくりにおいて非常に大切にしている姿勢です」

日本を代表するダウンメーカーのリサイクルダウンを使用

ダウンジャケットの本分である暖かさにもぬかりはない。
「冬のアウトドアにも対応できる良質なクリーンダウンを使用しています。使用する羽毛は、国内で羽毛の精製・加工から、羽毛ふとんの製造までを行う河田フェザー社のもの。優れた洗浄技術を持つことでも知られ、羽毛の細部まで浸透する超軟水を使うほか、羽毛同士を複雑にぶつけ合わせる研ぎ洗いと呼ばれる特殊な洗浄方法を駆使します」
ザ・ノース・フェイスのダウン製品の多くはこのダウンが使用されている
このモデルにも、河田フェザーが羽毛製品に使った羽毛を回収し、再び精製したグリーンダウンが使用されている。リサイクルダウンとはいえ、卓越した洗浄技術によって、羽毛に付着する垢やホコリは徹底的に取り除かれ、羽毛本来の暖かさや軽さ、柔らかさが十分に引き出されている。また、羽毛特有のニオイもほとんどない。
デビューから30年を超えた今も、その人気は衰えを知らない。
「ヌプシ ジャケットが時代を超えて愛され続けている理由は、スタイリングの自由度が高い点にあると思います。無駄のないシンプルなデザインは、アメカジからスケーター、アウトドア、ドレススタイルまでさまざまな着こなしにマッチします」
ダウンジャケットのスタイリングは、とかく画一的になりがちだが、ヌプシ ジャケットは、着る人の個性を映し出す格好のキャンバスとなる。
今季のコレクションルックには俳優の豊川悦司氏が登場
防寒ギアとしての妥協なきスペックとファッションアイテムとしての高いポテンシャルを兼ねそなえたザ・ノース・フェイスの看板アイテム。誕生から30年を超えた現在もなお、毎冬トップクラスの売り上げを記録するという。
その実力はまさに「DO MORE WITH LESS」。
ヌプシ ジャケットを手に入れたユーザーは、一着のダウンジャケットが生み出す最大級のパフォーマンスをとくと実感できるはずだ。

Text by Ryota Osujo

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